維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体
A Windfall Victory
選挙は接戦になるほど、追う側に勢いが出てくる。吉村にとって、その成功体験になったのは昨年の衆院選大阪10区と言われている。立憲の中で高い知名度と人気を誇った辻元清美から、維新が議席を奪った。
この選挙でも、激しい維新批判を展開する辻元が「(維新は)地方で着実に議員を増やし、組織をつくり、自民党仕込みの選挙戦を展開する。政党らしい政党で、地に足が着いている。この点は立憲も学ばないといけない」と私の前で語ったほどの攻勢だった。
京都で、明らかに脅威を覚えていたのは福山だった。かつての盟友、前原誠司が維新と共に支援に回った楠井祐子は大阪ガス社員で、無名の新人にすぎない。それが接戦に持ち込まれてしまった。「京都のことは京都で決める」「(吉村は)選挙応援やテレビ出演するなら、府民のために仕事をしろ」と防戦一方の選挙戦を展開することになった。
東京では維新が新しい支持層を掘り起こそうとしていた。6議席を争う東京で、自民2、立憲1、公明1の計4議席は堅いとされてきた。残り2つを、共産、れいわ、維新、立憲などで争う構図は早々に固まった。
議席獲得が現実的な目標になった6月26日銀座4丁目交差点にガラス張りの車が止まる──。
参院議員、音喜多駿の格闘技のリングアナウンサーような呼び出しに促され、吉村がマイクを握る。銀座三越前にいた買い物客が一斉に、吉村にカメラを向けた。有名人だから撮影をしておこうとしただけでなく、一つの選択肢として聞いておこうと足を止めて話を聞く人々が銀座に存在していた。
橋下ら初期の維新メンバーは大阪の改革を他所でアピールすることに執着した。だが大阪での成功を訴えても東京の聴衆の反応は「だからなんだ?」で終わっていた。「大阪の利益代表」に自らとどまる選挙戦だったが、吉村はその反省を踏まえてか、アピールポイントを変えていた。
「今の自民党政権は強いけど、ちょっと舐めくさってませんか? 国民に負担を押し付けてばかりで、政治家自身が腹をくくった改革をやっているのかといえば、できていません。物価高、値上げで少しくらい税金下げようと言っても相手にしてもらえない。立憲と自民は持ちつ持たれつだ。大阪では維新を自民がびびっている。自民に一泡吹かせたい」
畳み掛けるような吉村の演説に足を止める東京の人々、あるいは福山を追い込んでいる京都の支持層は、大阪のそれとは違う。「大阪の利益代表」としての維新とはまた別の、全国に通じる支持層が生まれていることを意味しているように思えた。
その正体は何か。京都府立大准教授、秦正樹(政治心理学)の実証分析によれば、大阪に限らない全国規模の維新支持層や評価を分析するとそこに明確な特徴を大きく2つ観察することができる。