最新記事

日本政治

維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体

A Windfall Victory

2022年7月13日(水)15時43分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

選挙は接戦になるほど、追う側に勢いが出てくる。吉村にとって、その成功体験になったのは昨年の衆院選大阪10区と言われている。立憲の中で高い知名度と人気を誇った辻元清美から、維新が議席を奪った。

この選挙でも、激しい維新批判を展開する辻元が「(維新は)地方で着実に議員を増やし、組織をつくり、自民党仕込みの選挙戦を展開する。政党らしい政党で、地に足が着いている。この点は立憲も学ばないといけない」と私の前で語ったほどの攻勢だった。

京都で、明らかに脅威を覚えていたのは福山だった。かつての盟友、前原誠司が維新と共に支援に回った楠井祐子は大阪ガス社員で、無名の新人にすぎない。それが接戦に持ち込まれてしまった。「京都のことは京都で決める」「(吉村は)選挙応援やテレビ出演するなら、府民のために仕事をしろ」と防戦一方の選挙戦を展開することになった。

東京では維新が新しい支持層を掘り起こそうとしていた。6議席を争う東京で、自民2、立憲1、公明1の計4議席は堅いとされてきた。残り2つを、共産、れいわ、維新、立憲などで争う構図は早々に固まった。

議席獲得が現実的な目標になった6月26日銀座4丁目交差点にガラス張りの車が止まる──。

参院議員、音喜多駿の格闘技のリングアナウンサーような呼び出しに促され、吉村がマイクを握る。銀座三越前にいた買い物客が一斉に、吉村にカメラを向けた。有名人だから撮影をしておこうとしただけでなく、一つの選択肢として聞いておこうと足を止めて話を聞く人々が銀座に存在していた。

橋下ら初期の維新メンバーは大阪の改革を他所でアピールすることに執着した。だが大阪での成功を訴えても東京の聴衆の反応は「だからなんだ?」で終わっていた。「大阪の利益代表」に自らとどまる選挙戦だったが、吉村はその反省を踏まえてか、アピールポイントを変えていた。

「今の自民党政権は強いけど、ちょっと舐めくさってませんか? 国民に負担を押し付けてばかりで、政治家自身が腹をくくった改革をやっているのかといえば、できていません。物価高、値上げで少しくらい税金下げようと言っても相手にしてもらえない。立憲と自民は持ちつ持たれつだ。大阪では維新を自民がびびっている。自民に一泡吹かせたい」

畳み掛けるような吉村の演説に足を止める東京の人々、あるいは福山を追い込んでいる京都の支持層は、大阪のそれとは違う。「大阪の利益代表」としての維新とはまた別の、全国に通じる支持層が生まれていることを意味しているように思えた。

その正体は何か。京都府立大准教授、秦正樹(政治心理学)の実証分析によれば、大阪に限らない全国規模の維新支持層や評価を分析するとそこに明確な特徴を大きく2つ観察することができる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中