維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体
A Windfall Victory
有権者の意識に最も近い政党
1つ目は維新という政党がどう見られているかだ。秦らの研究グループは有権者への調査でこんな質問をした。
主要政党のイデオロギーについて、0を最も左派、10を最も右派、真ん中を5としたとき、主要政党と回答者自身をどこに位置付けるか。
最も右派と評価されたのは自民でその平均値は6.6、左派は共産と社民が共に3.7で、立憲も左派寄りと見られており4.7だった。維新は中道的といえる5.5、有権者の平均も5.5である。
有権者の意識と最も近い政党が維新と見なされているのだ。また有権者が野党に望んでいるのも、政権に対して原則対抗ではなく、是々非々の姿勢で臨むというものだった。
この結果に、維新に批判的な層はこう考えるはずだ。維新はともすれば安保政策で自民より右派的ではないか。だが政治家の発言と、有権者の評価は往々にしてずれる。
調査から分かるのは、維新の支持層は外交政策を重視していないということだ。外交政策を重視する人は自民に投票している。維新への期待は政治改革や財政再建に集まっており、外交や、維新が強調してきた教育改革もあまり顧みられていない。外交への期待度が低いのは立憲も同様である。
もう1つの特徴は、政権担当能力への評価だ。国政選挙の前後で秦らが調査したところ、昨年の衆院選では60%前後の有権者が自民に政権担当能力があると評価していた。
これは与党としては当然である。維新への評価は選挙前の25.6%から選挙後は33%まで跳ね上がった。これは立憲を大きく引き離し、野党で最も高い結果になった。これらの実証分析から何が言えるのか。
「維新の支持は中道への支持でもある。自民は安倍政権以降、議員レベルでは右派が増え、右にポジションを取るようになった。逆に立憲は共産と組んだことで有権者から左派と見られるようになった。立憲の政策への評価は決して悪くはないが、旧民主党には有権者の拒否反応が強い。そして無党派層の野党共闘路線への支持は薄い。主要政党が真ん中から離れたため、維新は相対的に有権者一般の感覚と近い政党となり、かつ政権に対して是々非々の立場で票を伸ばしやすい状況になった」(秦)
秦の調査から浮かび上がるのは、SNSからは見えてこない多数の有権者の感覚だ。維新の支持、不支持はともすれば、極めて短絡的なメディア批判とひも付く。
「在阪メディアが批判的な報道をせずに吉村を連日テレビに出演させたから維新は支持されている」といったような言説が広がっていく。
「メディアが有権者の意識や行動に与える影響に関する研究では、メディアは、もともとの意見を補強するような効果はあっても、多くの人の政治的な態度を変えるほどの強力な効果はほぼないというのが主要な結果。(コロナ禍での)知事の支持率が高かったのは、大阪に限った現象ではなく北海道や東京でも同じ傾向だ。世界的に見ても、ロックダウンなど厳しい措置を取れば支持率が上がることが、一部の国を除き、各国で観察できる。共通の要因があるのではないか」と秦は言う。