最新記事

日本政治

維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体

A Windfall Victory

2022年7月13日(水)15時43分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

「烏合の衆」から脱皮できるか

沖縄タイムスによれば、昨年夏のコロナ第5波で世界最悪レベルの感染状況になった沖縄でも、今年5月時点で玉城デニー知事は約60%の高支持率を維持している。維新の支持は、ぽっかり空いた中道にその要因がある──。

実証が示す知見は重い。『政界再編 離合集散の30年から何を学ぶか』(中公新書)の著書がある北海学園大教授の山本健太郎は、今後成長する政党の鍵は中道の維持と組織運営にあると言う。キーワードは「よりよき統治」だ。

政界再編の歴史を見れば、改革を標榜する政党は一定の支持を得てきた。直近の過去ならばみんなの党がそれに当たる。だが、第三極から脱皮できないまま勢力は雲散霧消した。

山本が考える中道とは、外交・安保政策は現状維持を基本とし、自民党と差別化した理念、政策パッケージを並べることだ。外交・安保を争点とせず「よりよき統治」の中身を打ち出す。

それは統治機構改革や格差是正などその時々の状況によって変わるが、これを説得的に示せない限り、有権者は政権担当能力があるとは思わないと歴史が証明している。

「与野党の力が拮抗していれば第三極は力を持てるが、それ以外の政治状況では与党との連立を目指すか、野党として政権交代を目指すしか選択肢はない。中途半端なままでは、影響力を持ち得ない。自民が一番、嫌がるのは自分たちにできないことを打ち出す野党に支持が集まることだ。リベラルのような大きな理念は、ボリュームゾーンにいる中道な有権者には響かない。逆に核武装のように自民より右派色の強い政策も中道を取り逃がすことになる」

その意味では維新も岐路に立っている。中道かつ政権担当能力を支持されている点はプラスだが、主体的に獲得したわけではない。

政権交代を目指すのなら、組織運営はさらに問われる。維新所属の国会議員が「国会議員団と大阪市議団、府議団には壁がある」と口にし、「選挙に有利という議員が集まった烏合の衆」(府政記者)という状態では、内紛の火種を常に抱える。

要だった松井も来春の政界引退を表明しており、伸長を素直に喜べない要素はそろう。第三極から野党第一党として第二極を目指すには、外交・安保政策も含め、課題は残る。

従って結論はこうだ。バラバラな自民から「大阪の利益代表」という地位を獲得した維新は、10年かけて相対的に中道と見なされたことで新しい支持基盤をつくろうとしている。だが、支持はあくまで緩やかで、積極的なものではない。

中道と政権担当能力への期待で集まった支持は、他の野党も狙え、掘り起こせる層でもある。維新の伸長は、こう捉え直してみたい。それは置き去りにされたボリュームゾーンの可視化である、と。

ニューズウィーク日本版 トランプvsイラン
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月8日号(7月1日発売)は「トランプvsイラン」特集。「平和主義者」の大統領がなぜ? イラン核施設への攻撃で中東と世界はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECBの次回利下げ、9月より後になる公算=リトアニ

ワールド

トランプ氏、日本に貿易巡る書簡送付へ 「コメ不足な

ワールド

米政権がロス市提訴、ICE業務執行への協力制限策に

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック最高値更新、貿易交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引き…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機のトイレに入った女性に、乗客みんなが「一斉…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中