最新記事

NATO

トルコが丸のみさせた「NATO拡大容認」と引き換えの仰天要求

Turkey Lifts Objections

2022年7月4日(月)17時25分
ジャック・デッチ、エイミー・マッキノン、ロビー・グラマー(フォーリン・ポリシー誌記者)
エルドアン

北欧2カ国の加盟を一転容認したエルドアンの腹の内は VALERIA MONGELLI-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<北欧2カ国の加盟支持と引き換えに、「ごね得」エルドアンが手に入れたもの>

北欧のフィンランドとスウェーデンのNATO加盟について、難色を示してきたトルコが6月28日、一転して支持することで合意した。1カ月にわたって難航してきた加盟協議に、ようやく打開の道が開けた。

フィンランドのサウリ・ニーニスト大統領は、協議後に声明を発表。北欧2カ国とトルコが「互いの安全保障への脅威に対する全面的な支援」を行い、トルコが2カ国のNATO加盟を支持することを確認する共同覚書に署名したことを明らかにした。

北欧2カ国は共同覚書の中で、テロリストの身柄引き渡しを求めるトルコの要求に対処することに合意。さらにトルコが反政府勢力と見なすクルド労働者党(PKK)やギュレン運動を一切支援しないことも約束した。

両国は、シリアのクルド人民防衛隊(YPG)を支援しないことにも同意した。YPGは、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する主な抵抗勢力としてアメリカが支援するシリア民主軍(SDF)の主力部隊だ。これに加えてスウェーデンは、トルコへの武器禁輸措置を解除することにも合意した。

トルコ側の要求をほぼ丸のみした形の合意成立には、懸念の声も上がっている。だがNATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、北欧2カ国が「史上最速」でNATO加盟を果たせば、ロシアがウクライナに全面侵攻してもNATOの拡大は阻止できないというメッセージになると語った。「(ロシア大統領のウラジーミル・)プーチンへの明確なメッセージだ。NATOの扉は開かれていることを示したい」と、ストルテンベルグは言う。

クルド排除拡大への懸念

新規加盟国の承認には、NATO加盟30カ国全ての同意が必要だ。しかし北欧2カ国の加盟申請についてトルコは当初、反対を表明していた。トルコがテロリストと見なすクルド人の分離独立主義者を、両国が受け入れているというのが主な理由だった。

ニーニストはトルコとの協議後に発表した声明の中で、トルコ側との最終合意には、北欧2カ国からトルコへのクルド人テロ容疑者の引き渡しが含まれる可能性があると示唆している。

フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、70年間にわたって軍事的中立を掲げてきた両国の立場に反する動きだ。この2カ国は冷戦中に米ソのどちらにもつかない道を取り、その後も中立政策を維持してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏英、ゼレンスキー氏と再訪米を検討 「数日内」に和

ワールド

トランプ氏、カナダ首相と電話会談 関税など巡り協議

ワールド

ゼレンスキー氏、米との協力に「前向きな進展」 近く

ビジネス

米、加・メキシコ製自動車への関税導入30日延期を検
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行為」「消費増税」に等しいとトランプを批判
  • 3
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 4
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 10
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中