ジョニー・デップ裁判は「失敗」だった──最大の間違いは、判事の判断だ
Trial by Social Media
デップとハードの裁判映像を加工したコンテンツは、ハードを嘲笑するものが圧倒的に多かった JIM WATSON-POOL-REUTERS
<テレビ中継された元セレブカップルの裁判は、陪審員を「保護」できなかった判事の判断ミスのせいで陪審員が「雑音」にさらされた>
4月から7週間、全米をクギ付けにした俳優アンバー・ハードとジョニー・デップの元夫婦による名誉毀損訴訟が(ひとまず)終わった。
ハードは2016年に離婚を申し立てたときから、デップによるドメスティックバイオレンス(DV)を主張していたが、デップ側は断固否定。それでも比較的早い段階で和解がまとまり、17年1月に正式な離婚が成立していた。
今回問題となっていたのは、2人の離婚後の18年12月にワシントン・ポスト紙に掲載されたハードの寄稿記事。「私は性的暴力に声を上げた」と題された記事に、デップの名前は出てこない。だが「2年前、私はDVを代表する有名人になった」と書いていることから、デップとの関係を語っていることは明らかだった。
これに激怒したデップは19年、自らの評判とキャリアを傷つけられたとして提訴した。4月から始まった事実審理は、この裁判の最後の山場と言っていいだろう。
結果は、基本的にデップの圧勝だった。陪審は、ハードがデップの評判を悪意で傷つけたと認定し、損害賠償金として計1500万ドルをデップに支払うよう命じた(ただし裁判所があるバージニア州の法律により、この金額は1035万ドルに減額された)。
この判決は多くの理由から批判を浴びた。特に懸念されるのは、性的虐待に声を上げても、カネとパワーがある男性に握りつぶされてしまったり、かえって誹謗中傷の的になることを恐れて、被害者が口を閉ざすようになることだ。
裁判を担当したペニー・アズカラーテ判事の采配にも問題があった。もちろん、どちらかの当事者に肩入れしていたわけではない。それにメディアが大騒ぎしてカオス的な状況に陥るなか、法廷は一貫してオアシスのような穏やかさを維持していた。
だが、こうしたカオスが陪審員の頭の中に入り込まないようにする措置が取られたかどうかは疑わしい。アズカラーテは事実審理に先立ち、むしろそれを助長するような2つの決定を下した。
ネットに溢れた「涙の証言」を揶揄する動画
まず、裁判のテレビ中継を許可した。ただでさえDVというセンシティブな問題が扱われる裁判であるために、この決定はすぐに批判を浴びた。ハードの弁護士は、裁判の映像を切り出し、ハードが悪者に見えるよう加工することが非常に簡単であるとして、テレビ中継に反対していた。
その懸念は正しかった。
ただ、その加工と拡散のレベルは、ハードの弁護士の予想をはるかに上回っていた。ツイッターやフェイスブックには、裁判の映像を面白おかしく加工したコンテンツがあふれた。TikTok(ティックトック)には、ハードの涙ながらの証言音声を使ったユーザーの口パク映像が大量に拡散した。