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ウクライナ情勢

すっかりピョートル大帝気取りのプーチンだが、この戦争に勝者はいない

How Russia Turned Its War Around

2022年6月22日(水)14時20分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

ロシア軍が今後もじわじわと支配地域を広げていくとしよう。それでも戦場での勝利以外に、彼らが勝ち得るものはあるだろうか。かつて工業の中心地だったドンバス地方は、大半の都市が破壊し尽くされた。ゼレンスキーも先日、かつて10万人が暮らしていたリシチャンスクは今や「死の町」だと述べている。仮にドンバス地方がそっくりロシアの支配下に入ったとして、その復興に必要な資金が今のロシアにあるだろうか。

どちらも後に引けない

別な問題もある。侵攻開始直後の2月下旬には、多くの人がキーウの陥落は時間の問題だが、それでもロシアがウクライナを思いどおりに支配することはできないと考えていた。ウクライナ兵や市民は激しく抵抗するから、その対応にプーチンは何年も追われることになると。

実際、ウクライナ軍は予想以上に抵抗し、部分的にはロシア軍を撃退した。今後もしばらくは一進一退の攻防が続きそうだ。そしてもし、仮に戦場でロシア軍が勝利したとしても、果たしてプーチンの操り人形はウクライナをうまく統治できるだろうか。

ドンバスとクリミアを別にすれば、その他の地域に暮らすウクライナ人は昔からロシアの支配を嫌っていた。しかも今度の戦争で徹底的にやられたから、敵意はますます強くなった。ロシア系住民の多い東部でも、今のロシア政府への反感は強まっている。

それでも新たな武器弾薬の供給が続く限り、この戦争はまだまだ終わりそうにない。停戦交渉に入りたいなら互いに非難のトーンを下げるべきだが、現実は逆。むしろ態度を硬化させている。

かつてのプーチンは「NATOの東方拡大を防ぐ」だの「ドンバスでの民族虐殺を止める」だの、「ウクライナ政府を『非ナチ化』する」だのが目的だと言っていたが、今はすっかりピョートル大帝気取りで、ロシア帝国の失われた領土を回復する聖なる戦いだと言わんばかりだ。

対するゼレンスキーも、一度は「NATOに加盟する必要はない」と言って妥協の余地を見せたものの、今は一片たりとウクライナの領土は渡さないと意気込んでいる。

要するに、どちらも絶対に勝つつもりでいる。だが現実は違う。今はどちらも、失うものばかりではないか。

©2022 The Slate Group

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