最新記事

ウクライナ情勢

すっかりピョートル大帝気取りのプーチンだが、この戦争に勝者はいない

How Russia Turned Its War Around

2022年6月22日(水)14時20分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

220628p44_DBS_02v2.jpg

激戦地セベロドネツクで応急処置を受けるウクライナ側の負傷者 RICK MAVEーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

第1に、戦闘の大半は近距離で行われる。砲撃の応酬になれば、自軍にも敵と同じくらいの被害が出る(攻撃側には隠れる場所がないから、守備側より多くの死者が出る可能性が高い)。

第2に、ロケット砲の射程はせいぜい数十キロだから、ウクライナ領の奥深くまでロケット砲を運ぶ必要がある。そうなると、途中で補給線を断たれるリスクが高まる(食料や燃料が尽きれば、大切な武器も奪われかねない)。

つまり、当初の作戦ではロシア軍の弱点ばかりが目立ち、強みを生かせなかった。

しかしキーウの攻略を(少なくとも現時点では)放棄して部隊を東部戦線に移動させてからは、戦況がロシア側にとって有利になった。

なにしろロシア軍(表向きは「親ロシア」の民兵組織)は東部ドンバス地方で8年も前から戦っている。ドンバスでも西半分はウクライナ側の支配下にあったが、東半分は親ロシア派が実効支配してきた。だから補給面の心配はない。そして地形はおおむね平坦だから、奇襲攻撃を狙ってウクライナ軍が隠れる場所は皆無に等しい。

しかも地面は春の雨でぬかるみ、兵士たちは迅速に動けない。だから塹壕に身を潜めているのだが、そういう兵士は砲撃やミサイル攻撃の格好の標的だ。そして砲撃戦ならロシアが有利。手持ちの爆弾や砲弾は多いし、ロケット砲の射程も長い。だから、ウクライナ側のロケット砲が届かない場所から攻撃できる。

アメリカ政府は先に、ウクライナがロシアと対等に戦えるように、今までより射程の長いロケット砲の供与を決定した。しかし、これらの兵器が前線に届き、兵士が使い方を覚えるまでには時間がかかる。それでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、アメリカ政府の対応が遅いと不満を漏らした。

基本的に、塹壕戦では敵の防衛線を突破して背後に回り込み、全方向から包囲するのが理想的な戦術だ。現時点では、まだそこまではできていない。しかしロシア側の優位は明らかで、彼らはウクライナ軍を後退させ、ドンバス地方での支配地域をじわじわと、確実に広げている。

だからといって、この戦争でプーチンが勝利を収めつつあるわけではない。射程の長い飛び道具が手に入れば、失った土地の一部をウクライナ側が奪還し、ロシア軍を押し返すことも可能だ。

いずれにせよ、この戦争ではどちらの側も、電撃的な勝利は望めそうにない。ロシア側にもウクライナ側にも、それを可能にするほどの兵士がいないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノボノルディスクの糖尿病薬、大中華圏で初の売上減 

ワールド

焦点:韓国の通貨安定化、国内の米国株投資熱で苦境

ビジネス

スクエニHD、通期純利益予想を上方修正 10-12

ワールド

インドネシアGDP、25年は5.11%増 22年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新世論調査が示すトランプ政権への評価とは
  • 4
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中