最新記事

国連

「中国は人権基準を満たしている」──プロパガンダに加担した「人権の守護者」

A Failed Mission Taints Legacy

2022年6月20日(月)16時47分
ベネディクト・ロジャース(NGO「ホンコン・ウオッチ」創設者)
ミチェル・バチェレ

ミチェル・バチェレは1期目が終わる8月末で退任する意向を表明  DENIS BALIBOUSE-REUTERS

<元チリ大統領で、国連人権高等弁務官のミシェル・バチェレ。中国・新疆ウイグル自治区を訪れ、習近平の喜ぶ発言だけを残して、8月末での退任を表明。なぜ最後に汚点を残したのか?>

国連人権高等弁務官と言えば、世界における正義と市民的自由の守護者の1人だ。

ナバネセム・ピレイ(在任2008~14年)は、北朝鮮による「人道に対する罪」に関する国連調査の道筋をつけた。ザイド・ラード・アル・フセイン(同14~18年)は、ミャンマーのロヒンギャへの残虐行為について国際刑事裁判所に付託することを求めた。

だが、18年9月に就任した現職のミチェル・バチェレは違う。彼女は中国が新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧している問題を不問に付した。バチェレは先頃、再選は目指さず、1期目が終わる8月末で退任すると表明した。

国連人権高等弁務官は道徳的なリーダーであることを期待される。世界各地の人権侵害を白日の下にさらし、外交官や政治家に政策面での交渉をさせることが責務とされる。

だがチリの元大統領であるバチェレには、その役割がのみ込めなかったようだ。彼女は自ら中国政府との交渉役となり、国連機関における告発者および道徳的良心の中核としての責任を忘れてしまった。

バチェレは就任以来の4年間を、訪中実現のための交渉に費やした。今年5月に訪中が実現したことには、中国に批判的な活動家も文句は言えない。中国政府によるジェノサイドへの批判が高まる新疆ウイグル自治区を訪れたのだから、それなりの意義はある。

だが問題は、訪問の時期と性格、そして結果だ。これらはバチェレの任期の最終盤に大きな汚点を残した。

まるで習政権の広告塔

バチェレが訪中最終日に行った記者会見は驚くべきものだった。彼女は「反テロリズム」や「脱過激化」など中国政府が使う表現をそのまま口にし、「多国間主義」のために中国が担う役割をたたえ、貧困撲滅策の成果を大げさに述べた。彼女は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席に操られる「役に立つ愚か者」になっていた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中