「力尽きる難民を目の前に後悔」した沿岸警備隊員の挑戦──衛星監視スタートアップが人命と海洋を救う
海上で助けを求める難民 Naeblys-iStock
<衛星写真が示すデータは緊急時の対応に役立つだけでなく、責任の所在を問う裁判の証拠として役立つ可能性も>
2018年、アフリカや中東から何千もの移民が小船でヨーロッパを目指し、地中海を渡る命がけの逃避行を行なった。このニュースは多くの人の感情に訴えかけるものだったが、この人道的危機を独自の視点から見ていた人たちがいる。
当時、スペインの沿岸警備隊の救難機に乗っていたファン・ペーニャ・イバニェスとパブロ・ベンジュメダ・ヘレロスは、1日30隻ものペースで押し寄せる難民船の救助活動にあたっていた。
「私たちの乗る飛行機からは15マイル、20マイル、30マイルの地点しか見えませんが、何百マイル先まで監視しなければならない」とベンジュメダ。「当時は手が回りきらず、とても悔しい思いをした。目の前で力尽きる難民を見る度に、何かもっと良い方法があるはずだと思った」
自問自答の末、彼らは大学に戻って衛星リモートセンシングの修士を取得することに決めた。そして、衛星データを活用して世界中の海でのあらゆる活動を効率的に監視するオービタル(Orbital EOS)社を立ち上げた。
同社は、軌道上のレーダ衛星が収集したデータを分析する。レーダ衛星は、地表にある物体の電波を跳ね返し、その反射光を測定する。
ペーニャによると、以前はパトロールに「ハイテク航空機で4時間」かかっていた範囲が、衛星を使うと30秒に短縮される。
このデータは、表面張力の違いを認識する機械学習ソフトを通じ、人間だけでなく、流出した石油や化学物質のように水に浮かんだ物質も識別できるほど精密という。画期的な機能を武器に最初のサービスをリリースさせた。
ペーニャとベンジュメダは言う。「実際にソリューションを使うエンドユーザーだったので、技術と現場とのギャップを見極めるのは簡単だった」。ソリューションの設計は「自分自身が油流出に対処しなければならないとしたら......というユーザー視点に立つことから始まった」
解析された画像が示唆するもの
オービタル社の技術力を世に知らしめたのが、2021年5月20日にスリランカ近海で起きた海難事故だ。
コロンボ沖で化学物質やプラスチック数百トンを積んだコンテナ船「エクスプレス・パール(MV X-Press Pearl)」で大火災が発生。積み荷から流出した化学物質やマイクロプラスチックは海の生き物に壊滅的な影響を与え、被害はスリランカ史上最悪とも言われる。
事故発生当初、船主とスリランカ政府は、船から石油は流出していない、と発表していたが、オービタル社のデータはこれを真っ向から否定するものだった。解析された画像には、船から数百トンもの石油が流出したことが示唆されていた。