最新記事

新疆ウイグル自治区

強引に泊まり込んで性的虐待...中国「ゼロ・ウイグル政策」は習近平の指示だった

The Decisive Evidence

2022年6月2日(木)17時52分
ボニー・ジラード(調査企業「チャイナ・チャンネル」代表)
ウイグル弾圧への抗議

中国のウイグル弾圧に抗議する活動家(インドネシア、2022年1月) Willy Kurniawan-Reuters

<新疆ウイグル自治区当局から流出したファイルが、ついに明らかにした中国共産党による弾圧の実態と習近平の指示>

大量の顔写真や公文書、演説原稿、収容者名簿──。中国当局のデータベースから流出し、米英独のメディアや国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)によって公表された一連の文書は、中国共産党がウイグル人のアイデンティティーと文化を徹底的に消し去ろうとしていることを改めて明らかにした。

なかでも注目されるのは、新疆ウイグル自治区を視察した趙克志(チャオ・コーチー)公安相が2018年6月に行ったとみられるスピーチの原稿だ。「機密文書、要返却」というスタンプが押された文書は、中国共産党の思考と姿勢、そしてウイグル人をはじめとするテュルク系民族に対する抑圧措置の理論的根拠を示している。

それと同じくらい重要なのは、趙がこのスピーチの中で、残酷なウイグル人抑圧政策を先導しているのは、習近平(シー・チンピン)国家主席であることに、繰り返し言及していることだ。なにしろ全13ページにわたるスピーチ原稿で「習(共産党)総書記」や「習近平同志」など、習の名前は14回も出てくる。

趙はスピーチの冒頭から、100万人とも言われるウイグル人を裁判もなく拘束する措置は、習の指示に基づいていることを明確にする。「今回の新疆調査研究訪問は、習近平総書記と李克強(リー・コーチアン)首相の承認を得たものであり、習近平同志ら党中央の核心における新疆工作への高度な重視と関心と支持を十分反映している」というのだ。

政策発案者が習近平であることを明言

さらに、「本調査研究の目的は、1月6日に習近平総書記が出した新疆統治戦略と重要指示を実行し、テロとの戦いをさらに深め、新疆の対テロ治安工作の好ましい経験と実践を総括・学習することであり、収容所の管理と、新疆生産建設兵団の南方への発展についての調査研究に重点を置く」としている。

「収容所の管理」という表現に注目してほしい。趙は、約100万人が拘束された措置や政策の最大の考案者が習近平であることを明言している。権力の頂点にいる習の明確な承認がなければ、一閣僚がこんなことを言うはずはない。

中国共産党の幹部であるだけに、趙のスピーチのテーマは安定だ。新疆ウイグル自治区で取られている残酷な措置の最大の目的も、社会と政治の安定とされる。そして反体制派を徹底的につぶす作戦において、10の「よくできた点」があったと報告している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アクティビスト、世界で動きが活発化 第1四半期は米

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中