最新記事

アメリカ外交

バイデンがまた「台湾防衛」を明言、今こそ「戦略的曖昧性」を捨てるとき

Away From Strategic Ambiguity?

2022年5月31日(火)14時15分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

220607p30_CPL_03.jpg

台湾海峡で訓練を行う米軍の空母と駆逐艦 MICHELE FINKーU.S. NAVYーREUTERS

問われる関与の度合い

しかし、米ジャーマン・マーシャルファンドでアジア研究部門を率いるボニー・グレーザーの見方は違う。政策変更と受け取られかねないシグナルを送るのは危険だと彼女は言い、「これでいい、中国への抑止になるとみんな言うが、そんな保証はどこにもない」と指摘する。

「習近平はこれを中国政府の核心的利益への挑戦と見なし、台湾侵攻の時期を早めるかもしれない」。そもそも中国の国内事情は複雑だとグレーザーは言う。

「経済成長や新型コロナ対策など、習には大きなプレッシャーがかかっている。バイデン発言は彼を抑止するどころか、さらなるプレッシャーとなる可能性もある」

グレーザーのみるところ、「戦略的曖昧性」と「戦略的明確性」は対立概念ではなく、同じスペクトラムの中の2つの点にすぎない。そしてバイデン発言は「曖昧性」から「明確性」への段階的な移行を反映したものであり、それ自体は悪くないと考える。「中国の軍事力と脅威が増している以上、こちらも態勢を強化するのは当然」だからだ。

ただし、バイデンの発言が恣意的に聞こえるのは好ましくない。あの発言は「政策変更として発表されたわけではない」とグレーザーは言う。政府部内のきちんとした会議で「政策変更が議論された形跡もない。しかも(大統領の発言には)現在の政策について不正確な部分がある。これでは戦略が混乱する」

皮肉なもので、台湾防衛の問題を除けばバイデン政権の対中政策は巧みに硬軟を取り混ぜ、総じて賢明かつ戦略的な配慮も行き届いている。主要な同盟国と足並みをそろえてもいる。

5月下旬には大統領自ら韓国と日本に赴き、アジア諸国との包括的な貿易協定に向けた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」と呼ばれる新たな提案をした。自分が副大統領時代に推進し、前大統領ドナルド・トランプに破棄されたTPP(環太平洋経済連携協定)ほど具体的でも意欲的でもないが、アメリカが再びアジアでリーダーシップを発揮するというサインにはなる。

思えば中国の建国(1949年)以来、台湾は特殊で不思議な立場に置かれている。水滴なような形の小さな島なのに人口は約2400万、しかもその8割は都会に集中している。中国本土からは130キロほどの距離だが、まるで別世界のハイテク資本主義社会で、1人当たりのGDPは中国を大きく上回る。

そして米国防総省が昨年秋に出したリポートによれば、中国軍がこの小さな島を攻め落とし、占領するのはかなり困難だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ガザ軍事作戦拡大 国連診療所などへの攻

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中