バイデンがまた「台湾防衛」を明言、今こそ「戦略的曖昧性」を捨てるとき
Away From Strategic Ambiguity?
問われる関与の度合い
しかし、米ジャーマン・マーシャルファンドでアジア研究部門を率いるボニー・グレーザーの見方は違う。政策変更と受け取られかねないシグナルを送るのは危険だと彼女は言い、「これでいい、中国への抑止になるとみんな言うが、そんな保証はどこにもない」と指摘する。
「習近平はこれを中国政府の核心的利益への挑戦と見なし、台湾侵攻の時期を早めるかもしれない」。そもそも中国の国内事情は複雑だとグレーザーは言う。
「経済成長や新型コロナ対策など、習には大きなプレッシャーがかかっている。バイデン発言は彼を抑止するどころか、さらなるプレッシャーとなる可能性もある」
グレーザーのみるところ、「戦略的曖昧性」と「戦略的明確性」は対立概念ではなく、同じスペクトラムの中の2つの点にすぎない。そしてバイデン発言は「曖昧性」から「明確性」への段階的な移行を反映したものであり、それ自体は悪くないと考える。「中国の軍事力と脅威が増している以上、こちらも態勢を強化するのは当然」だからだ。
ただし、バイデンの発言が恣意的に聞こえるのは好ましくない。あの発言は「政策変更として発表されたわけではない」とグレーザーは言う。政府部内のきちんとした会議で「政策変更が議論された形跡もない。しかも(大統領の発言には)現在の政策について不正確な部分がある。これでは戦略が混乱する」
皮肉なもので、台湾防衛の問題を除けばバイデン政権の対中政策は巧みに硬軟を取り混ぜ、総じて賢明かつ戦略的な配慮も行き届いている。主要な同盟国と足並みをそろえてもいる。
5月下旬には大統領自ら韓国と日本に赴き、アジア諸国との包括的な貿易協定に向けた「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」と呼ばれる新たな提案をした。自分が副大統領時代に推進し、前大統領ドナルド・トランプに破棄されたTPP(環太平洋経済連携協定)ほど具体的でも意欲的でもないが、アメリカが再びアジアでリーダーシップを発揮するというサインにはなる。
思えば中国の建国(1949年)以来、台湾は特殊で不思議な立場に置かれている。水滴なような形の小さな島なのに人口は約2400万、しかもその8割は都会に集中している。中国本土からは130キロほどの距離だが、まるで別世界のハイテク資本主義社会で、1人当たりのGDPは中国を大きく上回る。
そして米国防総省が昨年秋に出したリポートによれば、中国軍がこの小さな島を攻め落とし、占領するのはかなり困難だ。