最新記事

BOOKS

「すぐつなげ」「すぐつなげ」「すぐつなげ」苦情などというレベルではないコールセンターのモンスター客

2022年5月12日(木)20時30分
印南敦史(作家、書評家)

「見えない相手」だから気が大きくなるのか

ともあれ、こうして実際の業務が始まる。つまりは実質的に、丸裸同前の状態で本物のお客からの電話を待つわけである。

もちろん、全ての電話オペレーターがこういう状態で仕事に臨んでいるわけではなく、もっと体制の整った会社もあるのだろう(と思いたい)。しかしその一方、こういう環境があることもまた事実ではあるようだ。

しかも大方の予想どおり、彼らの相手はモンスター級である。お客にとって電話オペレーターは、なんの関係性もない"見えない相手"だ。だから気が大きくなるのだろうが、本書に登場するお客に一般常識は通用しなさそうである。


「ドコモ中央料金お問い合わせセンター・吉川でございます」
「すぐつなげ」
「はい?」
「すぐつなげ」
 データを呼び出してみると、2カ月前に支払いの延期をしている。これは断らなければならない。
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「前回お約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「前回、9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
 クチャクチャというガムを噛む音がひっきりなしに聞こえる。まっとうな仕事をしている人間ではなさそうだ。
「お支払いの延期は何度もできないんですよ。それで前回、『今回限り』とお約束いただいてるんですよ」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」(26~27ページより)

このあとも同じことが延々と繰り返されるので端折るが、最終的には根負けし、「今回はやらせてもらいます。あと5分ぐらいで利用再開になります。ですがこのようなことは今後一切できませんので......」と念を押している最中に電話は切れたという。

確かにこんなことが続けば、オペレーターも嫌気がさすだろう。

ちなみにこれは単なる一例であり、「すぐつなげ」で押し通せばどうにかなるわけではないことを念のため記しておく。

なお、ストレスのたまる電話だけではなく、「1万本に1本ぐらいの割合で」心温まる連絡もあるようだ。


「去年の台風では、支援措置で助けてもらい、ありがとうございました。本当に助かりました。生活もどうにか軌道に乗り、仕事にも出かけられるようになりましたので、来月からはお金を取ってもらって大丈夫です。安くしてもらった分もこれから少しずつ返していこうと思います」(38~39ページより)

意味が分からなかった著者が電話を保留にして確認したところ、ドコモでは地震や台風などで被害を被った人に、通話料を割り引いたり支払い期限を延期したりしているのだそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中