「すぐつなげ」「すぐつなげ」「すぐつなげ」苦情などというレベルではないコールセンターのモンスター客
「見えない相手」だから気が大きくなるのか
ともあれ、こうして実際の業務が始まる。つまりは実質的に、丸裸同前の状態で本物のお客からの電話を待つわけである。
もちろん、全ての電話オペレーターがこういう状態で仕事に臨んでいるわけではなく、もっと体制の整った会社もあるのだろう(と思いたい)。しかしその一方、こういう環境があることもまた事実ではあるようだ。
しかも大方の予想どおり、彼らの相手はモンスター級である。お客にとって電話オペレーターは、なんの関係性もない"見えない相手"だ。だから気が大きくなるのだろうが、本書に登場するお客に一般常識は通用しなさそうである。
「ドコモ中央料金お問い合わせセンター・吉川でございます」
「すぐつなげ」
「はい?」
「すぐつなげ」
データを呼び出してみると、2カ月前に支払いの延期をしている。これは断らなければならない。
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「前回お約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「前回、9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
クチャクチャというガムを噛む音がひっきりなしに聞こえる。まっとうな仕事をしている人間ではなさそうだ。
「お支払いの延期は何度もできないんですよ。それで前回、『今回限り』とお約束いただいてるんですよ」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」
「9月27日に『今回限り』とお約束いただいてますよね?」
「すぐつなげ」
「今回はお支払い後の再開になります」
「すぐつなげ」(26~27ページより)
このあとも同じことが延々と繰り返されるので端折るが、最終的には根負けし、「今回はやらせてもらいます。あと5分ぐらいで利用再開になります。ですがこのようなことは今後一切できませんので......」と念を押している最中に電話は切れたという。
確かにこんなことが続けば、オペレーターも嫌気がさすだろう。
ちなみにこれは単なる一例であり、「すぐつなげ」で押し通せばどうにかなるわけではないことを念のため記しておく。
なお、ストレスのたまる電話だけではなく、「1万本に1本ぐらいの割合で」心温まる連絡もあるようだ。
「去年の台風では、支援措置で助けてもらい、ありがとうございました。本当に助かりました。生活もどうにか軌道に乗り、仕事にも出かけられるようになりましたので、来月からはお金を取ってもらって大丈夫です。安くしてもらった分もこれから少しずつ返していこうと思います」(38~39ページより)
意味が分からなかった著者が電話を保留にして確認したところ、ドコモでは地震や台風などで被害を被った人に、通話料を割り引いたり支払い期限を延期したりしているのだそうだ。