マリウポリ製鉄所、アゾフ連隊将校が語る恐怖の73日 「歯を磨くのも命懸け」...食糧の質問には怒りも
アゾフ連隊将校のイリヤ・サモイレンコ YouTube
<食糧が尽き、水場に出向くのも命懸けで、カビと湿気のなか2〜3時間しか眠れないという地下生活。諜報担当の将校と元避難者が状況を明かした>
1000名前後の兵士が直近まで残っていたとされるマリウポリのアゾフスタリ製鉄所の状況を、諜報責任者として製鉄所に留まったアゾフ連隊の将校が明かした。5月17日の時点でウクライナ軍は製鉄所の防衛作戦終了を発表し、残る部隊の救出の意向を示している。インタビューはこの発表の数日前に行われた。将校は24時間で同僚3人を失っており、朝歯を磨きに出るのも命懸けだと説明。逼迫した事態を強調した。
将校は名前をイリヤ・サモイレンコという36歳男性であり、諜報活動およびネットを通じたメディア対応を担当している。マリウポリの戦闘は兼ねてから激しさを増しており、サモイレンコ氏自身も立てこもり以前、ロシア軍が仕掛けた地雷によって片目と片腕を失った。いまは義眼と義手で軍の任務をこなす。
氏は英ミラー紙のビデオインタビューに応じ、製鉄所は毎日爆撃にさらされ、最大直径20メートルの穴があちこちに空いていると明かした。「まるで(クレーターだらけの)月面のようです」と氏は例える。
歯磨きに出るだけで命の危険
一日の生活は兵士の持ち場によって大きく異なるが、いずれにせよ生活の細部まで命懸けになっていたようだ。「朝になって歯を磨きに出れば、それだけで殺されるかもしれないのです」「ロシア軍は、証人が生きていることを一切良しとしません。」
食糧と医薬品の不足も深刻だ。「私たちは(インタビュー時点で)すでに73日間も隔絶された場所にこもっています。医薬品の在庫は限られており、食料の蓄えも同様です」「命に関わる薬の多くがもうありません。負傷した者たちは適切な手当を必要としていますが、医療用品が手に入らないのです。」
インタビューでは食糧の残りを聞かれる機会も多いようだが、この類の質問に対しサモイレンコ氏は憤りをあらわにする。「食糧と水がどれだけ残っているのかと尋ねられますが、この質問には耳を疑います」「仮に具体的な数字を知っていたとして、私が答えを口にするでしょうか? どういう意味でしょう、我々が死ぬまでのカウントダウンをしようというのでしょうか。」
製鉄所には36ヶ所のシェルター
いまでこそ製鉄所地下にいたほぼすべての民間人が救出されたが、一時は1000人規模の民間人が2ヶ月間を陽の当たらない地下で過ごしていた。
製鉄所で監督をしていたセルヒイ・クズメンコ氏も、家族とともに地下シェルターへ逃げ込んだ市民のひとりだ。迷路のように入り組んだ広大な地下空間には計36ヶ所にシェルターが設けられ、最大4000人を収容できるよう設計されている。
クズメンコ氏はカナダのナショナル・ポスト紙に対し、「彼ら(アゾフ連隊)の援助と食糧がなければ、我々は生き延びることができませんでした」と述べ、兵士たちと地下シェルターに助けられたと語った。
避難生活の初期にはたまに食糧が配られる程度だったが、クズメンコ氏らが自前で用意した食品が底を突くと、アゾフ連隊から定期的な支給が行われるようになったという。3〜4日おきにお粥やパスタなどの配給を受け、近くの避難者たち70人ほどと協力して一度に食事を用意していた。