マリウポリ製鉄所、アゾフ連隊将校が語る恐怖の73日 「歯を磨くのも命懸け」...食糧の質問には怒りも
眠れるのは2〜3時間
電力も利用可能であり、地下では排気の問題で発電機が使えない代わりに、電池が支給されていたという。
それでも地下での生活は困難を極めた。砲撃の衝撃でガラス片が食事に混入することは日常茶飯事で、常に湿った地下壕はカビとの戦いだったという。クズメンコ氏は退避したいまも、8歳の娘の肺を心配している。
まだ地下壕に留まっていた避難者たちは4月下旬、米ワシントン・ポスト紙に対し、避難生活終盤の凄惨な状況を打ち明けている。「(安全確保のため)絶え間なく移動を続けています。ほぼ全員が風邪をひくか体調を崩しています。1日に眠れるのは2〜3時間です。一日中攻撃が続いているのです。」「食事はほぼ1日1回で、たまに2回のときがあります。水は節約しています。生きるため、いまもそうしています。」
孤立しても絶望感はなく
兵士を除く民間人はほぼ救出された後も、アゾフ連隊の兵士たちは抗戦を続けていた。製鉄所は最も近い友軍とも100キロ以上離れた孤立無援の状態だったが、見捨てられたとの悲壮感はなかったという。
カナダ最大の民放局であるCTVに対して同氏は、軍の上層部と継続的に連絡を取り合い、上層部はアゾフ連隊の重要性を理解していたと述べている。完全に包囲されてなお、通信が途絶していないことが支えのひとつとなったようだ。
NATOによる直接的な支援を期待できない状況でなお、アゾフ連隊は米軍の古い戦術教本を参考に、有利な戦法を探った。
並行してロシア軍による非武装市民の攻撃や産科医院の空爆など、戦争犯罪の証拠収集にも力を尽くした。氏はマリウポリで発見された集団墓地の画像を示し、少なくとも1万5000人が殺されたと述べる。「こうした資料はすべて、ハーグの国際刑事裁判所で証拠として使用されることでしょう。」
市内では1万人死亡予測 「伝染病が始まるだろう」と市長
製鉄所からの民間人の避難がほぼ完了した後も、アゾフ連隊のサモイレンコ氏の表情は冴えなかった。「マリウポリでは最大2万5000人が殺害されたというのに、政治家たちは(製鉄所から)少数の人々が退避したことを喜んでいるのです。辛いものがあります。」
現在、マリウポリの街には市民が戻りつつあり、15〜17万人が生活している。なかにはロシア側の選別収容所に耐えきれず、マリウポリに戻ることを選んだ人々もいる。そのマリウポリの街で、衛生問題が懸念事項となりはじめた。
マリウポリ市議会はテレグラムのチャンネル上で、市内の衛生状況はおよそ生活に適さず、年末までに1万人が死亡する可能性があるとの予測を示した。薬と医療資源の不足、上下水道の破壊などにより、まもなく伝染病が流行するだろうと市長は述べている。
製鉄所からの退避が一段落したとはいえ、大多数の市民にとって生活復興は長い道のりとなりそうだ。