殺人犯に「引き寄せられる」人がいる──妥協のない取材から浮かび上がる現実
「あの頃、自分でも『いつ、死のうかな?』と思っていました。もし、あのとき、電話をしていれば、信頼関係ができたかも。そうなったら、(白石のアパートへ)行っていたかもしれません。こんな事件になるのは嫌ですが、自分だけが殺されて、明るみにならずに終わっていればよかった」(196ページより)
しかもこのあと直美は、またもや別の性被害に遭った。希死念慮がなくなることはなく、以後も自殺未遂を繰り返した。誰かに殺してほしいという気持ちも消えなかったようだ。
「(白石には拘置所から)また出てきてほしい。気持ちは以前と変わっていないです。亡くなった人も苦しんでいたのだと思います。だから承諾殺人でもいいんじゃない? と思っています。(白石と)似たような人がいるなら殺してほしいです」(199ページより)
直美はこののち、以前自殺未遂をした鉄道の踏切に再び飛び込んだ。しかし幸いにも未遂で終わり、周囲の援助もあって少しずつ前を向くようになっているようだ。
度重なる不幸に苛まれたそんな彼女のケースは、確かに稀有なものかもしれない。しかし、同時に「どこにでも起こりうるケース」でもあるだろう。
だからこそ、直美のような被害者(もしくは予備軍)は間違いなく存在し、その向こう側に白石に似た誰かがいるかもしれないということを、私たちは真剣に考えなければいけないだろう。
『ルポ 座間9人殺害事件
――被害者はなぜ引き寄せられたのか』
渋井哲也 著
光文社新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。