最新記事

BOOKS

殺人犯に「引き寄せられる」人がいる──妥協のない取材から浮かび上がる現実

2022年3月24日(木)18時15分
印南敦史(作家、書評家)


「あの頃、自分でも『いつ、死のうかな?』と思っていました。もし、あのとき、電話をしていれば、信頼関係ができたかも。そうなったら、(白石のアパートへ)行っていたかもしれません。こんな事件になるのは嫌ですが、自分だけが殺されて、明るみにならずに終わっていればよかった」(196ページより)

しかもこのあと直美は、またもや別の性被害に遭った。希死念慮がなくなることはなく、以後も自殺未遂を繰り返した。誰かに殺してほしいという気持ちも消えなかったようだ。


「(白石には拘置所から)また出てきてほしい。気持ちは以前と変わっていないです。亡くなった人も苦しんでいたのだと思います。だから承諾殺人でもいいんじゃない? と思っています。(白石と)似たような人がいるなら殺してほしいです」(199ページより)

直美はこののち、以前自殺未遂をした鉄道の踏切に再び飛び込んだ。しかし幸いにも未遂で終わり、周囲の援助もあって少しずつ前を向くようになっているようだ。

度重なる不幸に苛まれたそんな彼女のケースは、確かに稀有なものかもしれない。しかし、同時に「どこにでも起こりうるケース」でもあるだろう。

だからこそ、直美のような被害者(もしくは予備軍)は間違いなく存在し、その向こう側に白石に似た誰かがいるかもしれないということを、私たちは真剣に考えなければいけないだろう。

ルポ 座間9人殺害事件
 ――被害者はなぜ引き寄せられたのか』
 渋井哲也 著
 光文社新書

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、「政敵」チェイニー氏のFBI捜査を支持

ワールド

中国習主席マカオ訪問、返還25年式典出席へ

ワールド

独、軍兵士の規模拡大の可能性 NATOの戦力増強計

ビジネス

米一戸建て住宅着工件数、11月6.4%増 ハリケー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが物議...事後の悲しい姿に、「一種の自傷行為」の声
  • 4
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 5
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 6
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 7
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 8
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 9
    年収200万円は「低収入ではない」のか?
  • 10
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中