殺人犯に「引き寄せられる」人がいる──妥協のない取材から浮かび上がる現実
Newsweek Japan
<世間に衝撃を与えた「座間9人殺害事件」。その根底には被害者側の希死念慮があり、彼らと同じような思いを抱く人は今も存在している>
『ルポ 座間9人殺害事件――被害者はなぜ引き寄せられたのか』(渋井哲也・著、光文社新書)は、少なからず精神にこたえる一冊だ。
焦点が当てられているのは、2017年10月に神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった「座間9人殺害事件」。長きにわたって「若者の生きづらさ」をテーマに取材を続けてきた著者の取材姿勢に妥協がないだけに、事件の、そして死刑が確定した犯人の白石隆浩の異常性がリアルに浮かび上がってくる。
だから読み進めるほど気持ちは重たくなってくるが、克明な描写にのみ目を向けていたのでは、著者の意図する本質を見逃してしまうことになるかもしれない。
では、その本質とはなにか? それは、書名のサブタイトルにある「被害者はなぜ引き寄せられたのか」という部分にある。
「死にたい」気持ちをネットに発信する人は、話を聞いてもらいたい心情に駆られている。だからこそ、実際に会うことは難しくなく、一部のネットナンパ師はその心情につけ込む。さらには、相手の「死にたい」という気持ちを、自らの手で叶えようとする殺人犯が、接触を試みることすらある。(「はじめに」より)
事件の根底には、被害者側の希死念慮(死にたいと願う感情)があった。現に、被害者たちと同じような思いを抱く人もいるのだ。そのことは、事件が発覚してから約1カ月後に著者がTwitterを通じて呼びかけたというアンケートに対するリアクションにも明らかだ。
希死念慮をSNSでつぶやく理由を聞いた際、「座間事件で思ったことは?」という最後の質問に対して以下のような回答が返ってきたというのである。
・1人で死ねない奴が付け込まれた事件が起きたと思った。
・犯人は気持ち悪い。犯人の考えていることが想像できない。
・殺されるくらいなら自分で死にたいな。
・殺された人の代わりに死にたかった。
・私が代わりになれていたら、ご本人やご遺族が恐い思いをしたり、悲しむこともなかったと思った。
・私も10人目として遺体で発見されたかった。
・10人目になりたかった。
・私も死にたいと思った。(188〜189ページより)
アンケートの母数自体は少ないとはいえ、52人のうち24人が、被害者になることを望むような回答をしてきたという事実は注目に値する。
なお、この結果に驚いた著者は次いで、実際に白石とDMのやりとりをしたことのある直美(仮名、21歳)という女性にもコンタクトを取り、白石とどんなやり取りをしたのか、なぜ死にたいと思うかなどを聞いている。