プーチンはかつてのヒトラーより「有利」な立場...そこで世界が思い出すべき教訓とは
FROM MUNICH TO MOSCOW
「歴史を繰り返すな」と訴えるスペインでのデモのプラカード NACHO DOCEーREUTERS
<ナチスによる領土拡大をなぞるように進展するプーチンの戦略。歴史を繰り返さず、その野心を食い止めるために国際社会が取るべき対応は?>
あまり独創的ではない言い訳だった。2月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻について、同国東部ドンバス地方のロシア系住民に対する「ジェノサイド(集団虐殺)」のせいで必要に迫られたと、ロシアのプーチン大統領は主張した。既に指摘されているように、これはチェコスロバキア解体をもくろんだアドルフ・ヒトラーの戦略と似ている。
ヒトラーは多数のドイツ系住民が暮らすズデーテン地方の割譲を求め、チェコスロバキアに侵攻すると脅迫した。もっとも、実行の必要はなかった。第1次大戦の記憶が残るなか、1938年9月に開かれたミュンヘン会談で、英仏伊の首脳がヒトラーの要求をのんだからだ。
その半年後、ナチスはミュンヘンでの協定に背き、チェコスロバキアのボヘミアとモラビアに保護領を設置。スロバキアも事実上、保護国化した。ヒトラーはその後、ポーランドに領土要求の矛先を向けることになる。
ウクライナへのプーチンの攻撃も同様に始まった。2014年、ロシアはクリミアを併合し、ドンバスにある2州で傀儡勢力の蜂起を主導した。これは、94年署名のブダペスト覚書に対する著しい違反行為だ。同覚書の下、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンは旧ソ連時代から保有してきた核兵器を放棄。引き換えに、既存の国境線に基づく3カ国の主権と独立を尊重すると、英米、およびロシアは保証していた。
ヒトラーはズデーテン併合要求について「欧州での最後の領土要求だ」と言っていた。だが、その著書『わが闘争』を読んだ者なら誰でも、東欧にドイツ人の「生存圏」を獲得する野望を抱いていると知っているべきだった。
エストニアとラトビアが次の標的か
同様に、ソ連崩壊を「悲劇」と語ったプーチンは当然ながら、旧ソ連領での支配回復を目指していると考えられる。ロシアのウクライナ占領と傀儡政権樹立を許せば、バルト海沿岸のソ連支配下にあった諸国、特にロシア系住民の割合が多いエストニアとラトビアが次の標的になりかねない。
プーチンには、ヒトラーが幸いにも持たなかった核兵器という強みがある。侵攻前の2月19日、ロシアは核兵器搭載可能な弾道ミサイルの発射演習という形で他国にクギを刺した。さらに、介入すれば「これまで見たことのない結果」を招くと、プーチンは警告。同27日には、核戦力を含む核抑止部隊を「高度な警戒態勢」に移行させた。
ロシアには経済制裁が発動され、EUなどが領空を閉ざし、ロシア製品のボイコットも始まっている。ポーランドなどの近隣国は、ロシアのトラックを対象に陸路閉鎖も行うべきだ。残念なことに、こうした措置は戦争反対派も含む全ロシア国民に打撃を与えるが、ほかに手段があるだろうか。