ロシアの「燃料気化爆弾」は人間の肺の酸素も吸い上げる
‘It Is Horrendous’: Russia Prepares Vacuum Bombs to Blitz Ukraine
ロシア軍はすでに気化爆弾を使ったという人権団体もある CRUX./YouTube
<ロシア軍が準備中とされる気化爆弾は、民間人も巻き込む無差別兵器で、恐怖でウクライナ人の意気を阻喪させようとするものだ>
ウクライナ軍と民間人を震え上がらせるため、ロシアが気化爆弾(サーモバリック爆弾)を使用する可能性が高まっている。すでに使用されたとする人権団体もある。
ロシアが、無差別殺傷兵器である燃料気化爆弾(以下、気化爆弾)を搭載したロケットをウクライナの目標に投下できる発射装置を配備したと、アメリカ国防総省の幹部は3月1日、報道陣に述べた。ウクライナに対する軍事作戦がロシア軍の補給の遅れなどで難航していることから、ロシア政府がより殺傷能力の高い武器の使用に向けた準備を進めてウクライナ国民を恐怖で震え上がらせようという意図とも考えられる。
匿名を条件に取材に応じたある国防総省幹部は、ロシアが気化爆弾の発射装置を設置した場所については明かさなかった。3月1日の時点では、国防総省はロシアが気化爆弾を配備、あるいは実際に使用したことを確認していないと述べた。しかし、ウクライナ政府や現地の観測筋はさらに踏み込んだ見解を示している。駐米ウクライナ大使や複数の人権団体は2月28日の時点で、ロシアがすでに気化爆弾を使用したと指摘していた。
恐るべき兵器
「バキュームボム(真空爆弾)」の名でも知られる気化爆弾は、周囲の空間から酸素を奪い、高温反応を引き起こす兵器であり、通常の爆弾と比べて爆風を引き起こす時間が長い。ロシアがこの兵器を配備した背景には、ウクライナ軍と民間人の抵抗勢力を恐怖に陥れる狙いがあると、複数の専門家はフォーリン・ポリシー誌に指摘した。ロシア軍は、補給の問題から、ハリコフやキエフといったウクライナ主要都市への進軍が計画通りに進んでいない。気化爆弾の使用は、状況を打開する方策の一環と考えられる。
「これらの爆弾は、衝撃とまともに食らう周囲の人間を殺傷するだけにとどまらない」。かつて国防総省の副次官補や中央情報局(CIA)の役職を歴任したミック・マルロイは指摘する。「周囲の空気や周囲にいる人間の肺からも酸素を吸い上げてしまう。恐るべき兵器だ」
ロシア国防省は3月1日、ウクライナの首都キエフに対して、高精度の空爆をすぐさま実施すると警告していた。だが、ロシア軍は短距離弾道ミサイルの代わりに多連装ロケットランチャー「TOS-1」をはじめとする気化爆弾の発射装置を配備しはじめた。これは、ロシア軍が精密誘導兵器を急速に使い果たしつつあり、精密度の劣る無差別殺傷兵器で主要都市を包囲する作戦に転換したのではないかと、専門家は警戒する。ロシア軍は、1990年代〜2000年代初頭のチェチェン紛争でも気化爆弾を用いたと報じられており、厳しい非難を受けた。また、シリアの首都ダマスカスの郊外地域グータを反体制勢力から奪還するための作戦でも用いられたとされる。