最新記事

ウクライナ侵攻

プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官

PUTIN'S RESENTFUL REALISM

2022年3月25日(金)08時10分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)

220322P18_CAL_04.jpg

2021年に行われた米軍・NATOとウクライナの共同訓練 GLEB GARANICHーREUTERS

ウクライナでの衝突は、プーチンの怒りと孤立がもたらしたと考えることもできる。

私がCIA時代に接触したロシア人外交官は、国際関係における「攻撃的リアリズム」の信奉者だった。実際、この理論は他のどのモデルよりも正確に国際関係を説明できる。

攻撃的リアリストは、国際政治システムの本質を無秩序状態と見なす。それぞれの国家は常に全力で影響力とパワーの拡大を図り、競合する国家同士のパワーの相互作用に合理的に反応すると考えている。

この冷酷で道徳性に欠けるシステムを、2500年前の古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスは「メロス島の対話」で最も端的にこう表現した。「強者はやりたい放題、弱者はやられ放題」だと。

「彼らはわれわれをだました」

ウクライナと中央ヨーロッパにとっての悲劇は、アメリカ・NATOとロシアという二大勢力が、地理的に両者の中間にある地域で衝突するのは避け難いとされていることだ。互いに相手の影響力が増大すれば脅威と捉え、NATO(アメリカ)のロシア国境への拡大はロシアの安全保障を脅かすと見なされる。

私の現役時代、ロシア側は意見の一致点を探ろうとする私の試みを一貫して不誠実な態度と受け止めた。

「彼らはわれわれをだました」とプーチンは何十年も言い続けている。「NATOは猛烈に、あからさまに(中央ヨーロッパに)進出している」。これがプーチンの世界観だ。

多くの独裁者と同様、プーチンも国家と自分自身を混同し、アメリカは自分を滅ぼしたいのだと考えている。特に、11年のロシア下院選挙では自分を権力の座から追い落とすために、ヒラリー・クリントン国務長官(当時)が主導してCIAが陰謀工作を仕掛けたとして怒りを爆発させた。

当時の東ヨーロッパとロシアは、「カラー革命」と呼ばれる大規模な民主化運動の真っただ中にあった。(クリントンは)ロシアの反体制派に政権打倒のシグナルを送ったと、プーチンは言う。

実際、アメリカと国連は自由で公正な選挙を求めてロシアで活動するNGOを公然と支援していた。5年後、プーチンは16年の米大統領選挙に影響を与え、アメリカ社会を分裂させる目的で秘密工作を仕掛けた。

プーチンは08年、「ウクライナは国ですらない。それを知るべきだ」と当時のジョージ・W・ブッシュ大統領に言った。プーチンの考えでは、ウクライナはロシアとアメリカのどちらかの影響下に入るしかないのだ。これでは衝突は避けられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

米大統領補佐官のチーム、「シグナル」にグループチャ

ワールド

25%自動車関税、3日発効 部品は5月3日までに発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中