最新記事

ウクライナ侵攻

プーチンは正気を失ったのではない、今回の衝突は不可避だった──元CIA分析官

PUTIN'S RESENTFUL REALISM

2022年3月25日(金)08時10分
グレン・カール(本誌コラムニスト、元CIA工作員)

220322P18_CAL_05.jpg

EU加盟を求めるウクライナの集会(2014年1月、キエフ) GLEB GARANICHーREUTERS

あるいは別の道があったのかもしれない。ロシアは長年、ウクライナに手を出すなとNATOに警告してきた。そうすれば、ウクライナは両勢力間の「緩衝国家」となり、ロシアの勢力圏内の従属的存在に戻る。

これで死活的に重要なロシアの安全保障上の利益が保たれると、プーチンは主張した。この場合、プーチンは侵攻しなかったかもしれない。

だがアメリカとNATOは、全ての国の「主権平等」というリベラルな考え方を支持している。いかなる国家にも他国を従属させたり侵略したりする権利はないとする立場だ。

リアリズムとリベラルの衝突

このリベラルな立場を守るために、欧米はリアリズム流の力の保持・行使に頼らざるを得ない。この矛盾ゆえに、ロシア側はアメリカを偽善と見なし、私を不誠実と考えるのだろう。だとすれば、ウクライナをめぐる衝突はやはり避け難い。

この世界で最も危険なのは、筋金入りの「信者」だ。彼らは不完全さや曖昧さを受け入れない。

プーチンも欧米側も考えを変えないだろう。その結果、国際関係におけるリアリズムとリベラルな規範主義がぶつかり合い、それぞれの勢力は常に影響力と自分たちの存続を懸けて競争を繰り広げる。

いつの日かロシアにも、欧米に遺恨を持たず、国際政治システムが国家の独立を損なうことなく徐々にリベラルで安全なものに変わると考える指導者が現れるかもしれない。

利他主義は国家の無秩序で利己的な衝動と同様、このシステムを制御することができる。1945年以降、世界の多くの国々がこのような現実を生きてきた。ロシアでさえも89年以降はそうだ。

今は一瞬だけ舞台裏に下がっている中国の習近平(シー・チンピン)国家主席も、プーチンと同様の世界観の持ち主であり、徐々に台湾や南シナ海をアジアのウクライナとして扱うようになってきた。だが、現時点でウクライナを破壊し、世界大戦の危機を限界まで高めているのは、プーチンの「怒りのリアリズム」だ。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

米大統領補佐官のチーム、「シグナル」にグループチャ

ワールド

25%自動車関税、3日発効 部品は5月3日までに発
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中