認知症の世界を「実感」できる本、『認知症世界の歩き方』から見えること
── 筧さんは「認知症未来共創ハブ」だけでなく、震災ボランティア支援の「できますゼッケン」、育児支援の「親子健康手帳」、持続可能な地域づくりシミュレーションゲーム「SDGs de 地方創生」など、デザインによる社会課題の解決に携わってきています。こうしたテーマに関わり続けている原動力はどのようなものでしょうか。
シンプルにいうと「面白いから」という言葉に尽きますね。経済が右肩上がりで成長していた頃は、世の中の課題に対するソリューションや正解がはっきりしていました。でも現代のように成熟した時代では、正解がないケースや正解があってもその実現が非常に難しいケースが増えていく一方です。とりわけ社会課題の領域では、複雑でどこから手をつけたらいいかがわからない問題がたくさんあります。
たとえば「認知症の人が抱えている課題」を大多数の人に正しく伝えることも、多大な予算をかければすぐに可能かもしれない。でも、そこまでお金をかけられない状況では、「認知症ってそうなんだ」と知っていくプロセスに面白さを感じてもらう工夫が必要です。
そこに僕たちのようなデザイナーが必要とされる場面が増えてきています。実際に本書を読んだ方から「家族との向き合い方が変わった」というような声を聞いたときに、やりがいを感じますね。もちろんこれは、社会課題の現場に近い人たちが僕らを必要としてくれていて、そうした人たちとの関係性があってはじめて可能なことです。
デザインプロセスの核、「イシュー」の大切さを説いた本
── これまで読まれてきた本の中で、ご自身の価値観やデザインの仕事に影響を与えた本は何でしたか。
色々とありますが一つは『イシューからはじめよ』です。青山ブックセンターでフェアの選書を依頼されたときも、「僕なりの『デザインプロセス』を体現した7冊の1冊」としてとりあげました。この本は、問題を解く前に、本当にそれが解くべき問題であるか、イシューであるかを見極める重要性を説いた本です。
僕自身もプロジェクトのなかで「イシューが大切」と常に仲間に伝えています。それを、著者の安宅和人さんがわかりやすく体系的に整理しています。自分の考えを的確に提示してくれた本ですね。
『イシューからはじめよ』
著者:安宅和人
出版社:英治出版
flierで要約を読む