インドネシア、イスラム教寄宿舎で聖職者が女子生徒13人に暴行8人が妊娠 終身刑に世論や検察は極刑求め控訴
死刑と化学的去勢求める世論
イスラム教では妊娠中絶が禁忌とされ、またインドネシア社会も未成年の妊娠や中絶への偏見が色濃く残っているなか、事件は犯人がイスラム教指導者だったことから大きな注目を集め、ヘリー被告に死刑と化学的去勢を求める声が高まった。
地元警察から訴追を受けて開かれたバンドン地裁での裁判は2月15日、被告に「終身刑」の実刑判決を下し、化学的去勢は却下された。
この判決に対し、被害者の女子生徒やその家族の弁護士は「被害者らは判決に怒り、涙を流している。判決は彼らにとって到底受け入れられないものである」と語った。
ヘリー被告に関しては裁判開始前から極刑を求める世論が高まっていたこともあり、今回の「終身刑」に国民の多くは不満を表明。検察はヘリー被告の死刑を求めて2月22日にバンドン1級地裁に控訴した。
検察側は「女子生徒らに深刻な衝撃を与えた犯罪だけに、2度とこのような犯罪が起きないように国民に見せしめのためにも重罪に処するべきだ」としている。
政府も救済補償に動く事態に
裁判所では判決と同時に政府・女性児童省に対し、被害に遭った女子生徒の救済のために補償することを命じ、ジョコ・ウィドド大統領も被害者に対して「1人当たりで最大約70万円の賠償金を支払いたい」との意向を表明するなど政府を巻き込んだ事件に発展していた。
一方、国家人権委員会は、インドネシアは依然として麻薬犯罪、テロ犯罪などに対する死刑が維持されているものの、国際社会の傾向として死刑廃止が広まっており、ヘリー被告への死刑要求にも反対することを表明していた。
このようにインドネシア世論の大勢がヘリー被告への死刑要求するなか、司法が世論の動きに影響されることなく、どこまで公正中立な判断を維持できるか注目が集まっている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など