最新記事

ミャンマー

反対渦巻くカンボジア・フンセンのミャンマー訪問 「親中の独裁者が来ても」と国民の期待は薄く

2022年1月8日(土)19時11分
大塚智彦
ミャンマー市民の抗議デモ

カンボジア首相フンセンの訪問に講義するミャンマー市民 REUTERS

<軍政と市民などの膠着状態が続きASEANによる打開策も功を奏さぬまま、ミャンマーはもうすぐクーデターから1年となる>

軍政による強権支配と武装した市民や少数民族との戦闘が激化し、犠牲者が増えているミャンマー。その現状を打破するため東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国カンボジアのフン・セン首相がミャンマーを訪問したが、ミャンマー国民からは強い反発が示され、意気込んだ和平・調停工作は暗礁に乗り上げようとしている。

親中派であり、カンボジア国内で反政府勢力や政権に批判的なマスコミなどへの弾圧を繰り返す「独裁者」でもあるフン・セン首相と、ミャンマー軍政のトップであるミン・アウン・フライン国軍司令官は7日に直接会談した。しかしこれといった成果は実質上なかった模様で、現状改善の道筋が期待できないどころか、軍政に「お墨付き」を与えるとの思いが反軍政を掲げるミャンマー国民の間に根強く、それが反対運動につながっているのだ。

事実、1月7日から予定されていたフン・セン首相の訪問を前に、ミャンマー中心都市ヤンゴンにあるカンボジア大使館周辺では爆弾騒ぎが起きたほか、6日にはミャンマー各地で「反フン・セン」のデモが繰り広げられフン・セン首相の写真にバツ印を書いたり、写真を足で踏みつけたりする様子がSNSや反軍政の立場をとる独立系メディア上にあふれる事態に発展していた。

ASEANとの5項目合意

ミャンマーの加盟しているASEANは、2021年2月のクーデター発生直後から欧米などによる経済制裁とは一線を画したASEAN独自の事態打開策をインドネシアなどが中心となって模索してきた経緯がある。

4月24日にはインドネシア・ジャカルタでASEAN臨時首脳会議の開催に漕ぎつけ、ミン・アウン・フライン国軍司令官を直接対面の場に呼ぶことに成功。軍政側もASEANを特別に重要視する姿勢をみせていた。

この首脳会議では、軍政が打倒したアウン・サン・スー・チー氏率いる民主政権の復活を求めるインドネシアやマレーシア、シンガポールなど各国首脳が、軍政が拘束したスー・チーさんの即時釈放を求めたが、ミン・アウン・フライン国軍司令官は回答を避けた。

一方でASEANは事態打開に向けた5項目を要求、ミン・アウン・フライン国軍司令官と合意に達した。

5項目は①市民を標的にした武力行使の即時停止と関係者全員の自制、②国民の利益を最優先とし平和的な解決を目指して関係者全員で建設的な話し合いの実施、③ASEAN事務総長の協力を得て話し合いの過程にASEAN特使を派遣し対話を仲介する、④ASEAN人道支援局からの人道的支援の受け入れ、⑤ASEAN特使の受け入れと関係者全員との面会、となっている。

4月以降、ASEANはこの5項目合意を基にミャンマーに対して事態打開を強く要求してきた。当時の議長国ブルネイのエルワン・ユスフ第2外相が何度かASEAN特使としてミャンマーを訪問しようとしたが、軍政は逮捕・公判中のスー・チー氏との面会を断固として拒絶。特使派遣は実現しないままASEANとしての仲介・調停は事実上行き詰っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中