最新記事

ハラスメント

欧米でも増えるモンスター客、コールセンター従業員8割が暴言を経験 勤務前からにじむ涙 

2021年12月17日(金)17時50分
青葉やまと

8割が暴言を経験 勤務前からにじむ涙

こうした例は枚挙にいとまがない。 AI開発のASAPP社が発表したデータによると、アメリカではコールセンター勤務者の81%が顧客から暴言を吐かれた経験をもつ。また、3人に1人は脅しを受けたことがあるという。全米でおよそ300万人がコールセンター業務に従事しているが、離職者は毎年120万人に達する。インドのビジネス・スタンダード紙など本調査を報じている。

アメリカ最大規模の医療保険会社であるシグナ社の現場も、スタッフへの問題行為が頻発する職場のひとつだ。パンデミックに伴いコロナの検査費用の払い戻しに関する問い合わせが激増し、長引く処理時間に顧客が苛立っている。

同社スタッフが匿名で英ガーディアン紙に明かしたところによると、顧客が不満を抱えている背景には同社のサポート体制の不足もあり、一概に顧客が悪であるとは断言できないようだ。

ただし、苛立つ顧客たちから暴言を受けることも多く、サポート担当者たちにとっては大きな精神的負担となっている。この担当者は問題解決の助けをしたいものの、上司から求められる対応効率と怒れる顧客の間で板挟みになっていると打ち明ける。

この担当者は同紙の取材に対し、「勤務の開始前に涙が溢れそうになる日さえ何度かありました。精神的にも肉体的にも、もう耐えられません」とこぼす。

メンタル保護の試み始まる

状況が深刻化するにつれ、オペレーターたちの精神衛生を守るべきだとする動きが出始めている。北部スコットランドの労働党議員は、前線の従業員に対する虐待を独立した犯罪として扱えるよう、政府に法案の採択を求めている。

これとは別に、独自の対策に踏み切る企業も現れた。ロイズ銀行は新たなしくみを試験導入し、オペレーターを精神的な攻撃から保護しようと図っている。同行のオペレーターが、罵声や攻撃的な言動、セクハラなどを受けた場合、顧客に警告したうえで、改善されない場合には対応を打ち切ることが認められる。通話は自動応答メッセージへと転送され、暴言を吐いた顧客は次のような音声を聞くことになる。

「建設的な会話を行うことができなかったため、通話を終了しました。お客様のお手伝いをしようと努めているスタッフに対し、脅迫あるいは虐待的な言動を行うことのないよう、前もってお願いしております。通話内容を検証し、結果によってはお客様の口座を解約する必要がありますので、その際は追って書面でお知らせします。」

口座の解約が単なるけん制に留まるか、それとも実際に行う可能性があるのかを同行は明らかにしていないが、いずれにせよ真剣に問題と向き合う意向を感じさせる内容だ。顧客だから多少の暴言は許されるという誤った風潮は、もう当たり前ではなくなっているのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中