新たなフェーズに入った米中関係
The U.S.-China Relationship Has Entered a New Phase
経済分野では、互いに敵意を抱き貿易戦争を繰り広げていながらも、米中の相互依存関係はさほど変わっていない。確かにテック部門の貿易では一部に双方によるデカップリングがみられたし、複数の米企業がサプライチェーンの多様化と近隣国への業務移転を進めている。中国は米株式市場から複数の企業を撤退させ、アメリカに報復関税を課している。だが米商工会議所が実施した調査によれば、複数の企業が中国での事業を縮小させている一方で、71%は「中国から撤退する計画はない」としている。
米通商代表部によれば、中国は今もアメリカにとって最大の貿易パートナーだ。2020年には総額6150億ドル相当のモノとサービスが両国間で取引され、アメリカの対中投資も1245億ドルに増えた。さらに、中国が2020年に金融市場の一部を対外開放した後、ウォール街の複数の企業が中国の債券市場に総額2120億ドルを注ぎ込んでいる。
それでも中国の搾取的な産業政策やサイバーハッキング、経済的抑圧や、国際的なシステムを自分たちにとって都合のいいように変えようとする姿勢が、地理経済的な競争を悪化させてきた。中国はこれと並行して修正主義を掲げ、東シナ海および南シナ海で領有権を主張して強引な軍事活動を展開し、台湾の防空識別圏に戦闘機や爆撃機を侵入させて嫌がらせを行ってきた。
強引な言動が裏目に
さらに最近では、インドネシアに対して、中国政府が領有権を主張する海域での石油・天然ガスの採掘を中止するよう要求した。中国は、いわゆる九段線によって南シナ海の大半の海域の領有権を主張しており、2016年にはハーグの国際仲裁裁判所はこれについて、国連海洋法条約に違反しているとの判断を下している(中国は同条約を批准しているものの、部分的にしか順守していない)。
だがいずれの行動も、中国に良い結果をもたらしていない。大風呂敷を広げて立ち上げた一帯一路イニシアチブも、順調に進んでいるとは言い難い。中国の強引な言動は、アメリカと中国の緊張関係をさらに悪化させただけでなく、中国自身の目標にも悪影響を及ぼし、ヨーロッパとアジアの多くの国が協調して、中国に対抗する事態を引き起こしている。最近の複数の世論調査でも、中国に対する否定的な見方が急増していることが示されている。
同時に、習は国内で前例のない経済の混乱に直面している。中国経済のざっと29%を占める不動産セクターが、官民合わせて総額3000億ドル(約34兆円)にのぼる巨額の負債を抱え、脆弱な金融システムの基礎にあり続けている。懸念すべきは、巨額の債務、経済成長の鈍化と生産性の低下、エネルギー不足、人口減少といった問題が、時代遅れの経済モデルを反映している点だ。中国には経済改革が必要だが、その改革が政治情勢の不安定化につながることを中国共産党が危惧しているという状態にあり、「中所得国の罠」に陥っている可能性がある。