最新記事

米中関係

新たなフェーズに入った米中関係

The U.S.-China Relationship Has Entered a New Phase

2021年12月7日(火)21時27分
ロバート・マニング(大西洋協議会上級研究員)

これと並行して、テクノロジーなど中国でも最も生産性の高いセクターの一部は、「思想的な堕落」や、共産党の統制からの逸脱に対する危惧を理由に、国を挙げた政治的締め付けのターゲットとなっている。一部には、こうした統制は、中国のパワーがそのピークにあり、今後はゆるやかに下降することの現れだという声も出ている。


先日の米中首脳会談に、習が大きな意気込みで臨んだ背景には、迫り来る衝突への危惧の念に加え、これまで述べてきたような社会・経済面での苦境があるとも考えられる。この結果として、中国政府の政策の一部が修正される可能性もある。アメリカ、そして世界の他の国々は、中国のふるまいに対して、自分たちが思う以上に大きな影響力を持っている可能性があるのだ──中国メディアや外交官からは、依然として激しい非難の言葉が繰り出されているとはいえ。

バイデンと習による米中首脳会談以降の外交は、両国による意図の探り合いになる。米中関係に横たわる根本的な問題に答えを出す唯一の方法は、臆測を脇に置き、摩擦を引き起こした問題に関して、相手の意図を探る交渉を粛々と進めることだ。これは必然的に、漸進的で時間のかかるプロセスになる。

石油備蓄の協調放出は1つの成果

いまのところ、米中対立をトーンダウンさせようとする試みはそれほど大きなものにはなっていないが、会談が無意味だったというわけではない。米中は、双方のジャーナリストに対する制限措置の緩和で合意したが、これも、新たなムード造りのためにお膳立てされたもののように見える。もっとも、中国が実際に取材可能な範囲を拡大したり、外国のジャーナリストを標的にした行為を中止したりすることを示す兆候はほとんどないのだが。

より具体的な例としては、気候変動対策を協議する国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の合意文書が予想外の内容になったことも、事前に行われた外交交渉の成果だったようだ。この中では、メタンの排出量削減、石炭火力発電の段階的縮小、クリーンエネルギー技術分野での協力が、共同で取り組むべき重要な領域として挙げられている。同様に、石油の二大消費国である米中両国は、エネルギー価格の高騰に直面し、エネルギー安全保障に関わる施策について合意に至っている。これには、戦略的石油備蓄の協調放出や、アメリカ産の天然ガスを中国が購入する量の増加などがある。

競争の中核には、地理経済学的な要素が存在する。貿易についてより広い視野から見ると、中国政府の保護主義的な貿易政策を変えるには、アメリカからのより強い圧力が不可欠だ。アメリカ、欧州連合(EU)、日本は、産業補助金の問題について議論を行っており、この3者が足並みをそろえることができれば、世界貿易機関(WTO)の改革を後押しするとともに、中国が支給している巨額の補助金を抑制し、透明性を増すよう圧力を高めることにつながる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スターマー英首相、トランプ氏の批判に反論 「欧州は

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 「経済は米関税にも耐性示

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ビジネス

米雇用コスト、第3四半期は前期比0.8%上昇 予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲う「最強クラス」サイクロン、被害の実態とは?
  • 4
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中