安倍元首相オンライン演説を台湾はなぜ歓迎しないのか?
ところが1969年に国連のECAFE(Economic Commission for Asia and the Far East。アジア極東経済委員会)が尖閣諸島などの東シナ海に海底油田や天然ガスが眠っているようだと報告すると、在米台湾留学生が尖閣諸島に関する台湾の領有権を主張してデモを起こし始めた。というのは、中華人民共和国が「中華民国」に代わって国連に加盟しようと動き始めていたからだ。
毛沢東は建国以来、尖閣諸島の領有権は日本にあると主張していたのに、海底油田や天然ガスがあることを知ると、中国は突如、「釣魚島(大陸における尖閣諸島の呼称)は中国のものだ」と主張するようになった。
だから在米の台湾留学生たちは「蒋介石が無能だから、このようなことになる」として抗議デモを始めたのだ。
この実態を調べるために私は何度も行っているサンフランシスコに再び行き、当時のデモ参加者の記録を入手し、かつスタンフォード大学フーバー研究所にある蒋介石直筆の日記で当時の記録を確認しているので、これは間違いのない事実である。
1970年に入ると蒋介石の体力はかなり弱ってきたので、息子の蒋経国が蒋介石に代わり「釣魚台(尖閣諸島)は中華民国のものだ」と主張するようになった。
そこでアメリカは沖縄返還に当たり、「領有権に関してはアメリカは関わらない。当事者同士で話し合って解決してくれ」とサジを投げてしまった(このことは、2015年4月29日のコラム<日本が直視したがらない不都合な事実――アメリカは尖閣領有権が日本にあるとは認めない>でも少し触れた)。
以来、「中華民国」(台湾)は、「釣魚台(尖閣諸島)の領有権は中華民国にある」と強く主張するようになっている。
しかし、たいへん残念なことに、日本のマスコミや「中国研究者」あるいは「国際政治学者」、さらには「元外交官」までが、安倍氏が台湾に対して上述のような講演をすることは、「中華民国の領土主権を侵犯する言葉を発したのに等しく」、「台湾を侮辱したに等しい」という認識を持つことができないままでいる。
真相を見極める見識の欠如は、日本を誤った道へと進ませることに気が付かなければならない。
尖閣諸島が日本の領土であることに疑いの余地はないが、台湾を「友好国・地域」として味方につけたければ、最低限、本稿で論じた基礎知識くらいは持たなければならないだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら