偽物か、奇跡の薬か? 「イベルメクチン」の真実
BOGUS OR MIRACLE DRUG?
メディアはイベルメクチンの信奉者が馬用の薬を買いに走って大量服用しているなどと伝えたが、ギャニオによるとこれは誤報だ。彼らは「適応外使用」、つまり承認された用途以外での処方を医師に求めただけで、そこに違法性はない。薬剤師は安全性に懸念があれば処方薬の提供を拒否できるが、「むげに断ることはまずない」と、ギャニオは言う。
有力メディアはイベルメクチン論争の微妙なニュアンスを無視して、馬の駆虫薬というレッテルを貼り、「インチキ」だと騒ぎ立てたのだ。「奇跡の薬ではないにせよ、そこまで目の敵にするのはいかがなものか」と、ブルウェアは言う。
虚偽の主張を繰り返した点では、右派も同罪だ。右派の間では昨年からイベルメクチンが新型コロナに効くという噂が広がっていたが、ブームに火が付いたのは今年初め、FOXニュースの司会者ローラ・イングラムが宣伝役を買って出てからだ。
医療従事者や科学者、規制当局は有効性を裏付けるデータが大幅に不足していると反論した。これに対して、上院議員のポールは地元ケンタッキー州での集会で、トランプ支持者が支持しているからとの理由で、研究者はイベルメクチンにわざと背を向けていると発言したという(ポールは後に、自身の見解が誤って報じられたと主張)。
製薬大手の利益の保護を優先?
保守派著名人のこうした姿勢によって、政府や医療業界は新型コロナ治療ではなく、製薬会社がワクチンから得る利益の保護により関心を持っているとの主張が強固になった。
ミネソタ大学のブルウェアいわく、これは「ナンセンスの極み」だ。「政府は複数の新たなイベルメクチン臨床試験に資金を提供している」
アメリカでは現在、全国規模の臨床試験として、患者1万5000人(推計)が参加するデューク大学主導の「ACTIV-6」や、患者1200人を対象にしたミネソタ大学の研究チームなどの「COVID-OUT」が実施されている。
米国医師会(AMA)や規制当局は今年に入って、より明確なデータが不足したまま新型コロナ治療にイベルメクチンを用いることに強い反対を示し始め、処方箋の入手がより困難になった。イベルメクチンの熱狂的支持者が、処方箋なしで購入できる動物用医薬品店に足を運ぶようになったのはそれからだ。
おかげで、ブームの危険性は増した。人間より体重が重い馬や牛に使われる家畜用イベルメクチンは一般的に濃度が高く、人間の上限用量の最大15倍に達する。軽度の過剰摂取でも吐き気や筋肉痛、下痢などの副作用が確認されており、摂取量が増えれば、副作用も深刻化する。