最新記事

新型コロナウイルス

偽物か、奇跡の薬か? 「イベルメクチン」の真実

BOGUS OR MIRACLE DRUG?

2021年11月25日(木)18時44分
デービッド・H・フリードマン(科学ジャーナリスト)

211130P44_IWC_04.jpg

ワクチン接種を受ける高校生 AP/AFLO

メディアはイベルメクチンの信奉者が馬用の薬を買いに走って大量服用しているなどと伝えたが、ギャニオによるとこれは誤報だ。彼らは「適応外使用」、つまり承認された用途以外での処方を医師に求めただけで、そこに違法性はない。薬剤師は安全性に懸念があれば処方薬の提供を拒否できるが、「むげに断ることはまずない」と、ギャニオは言う。

有力メディアはイベルメクチン論争の微妙なニュアンスを無視して、馬の駆虫薬というレッテルを貼り、「インチキ」だと騒ぎ立てたのだ。「奇跡の薬ではないにせよ、そこまで目の敵にするのはいかがなものか」と、ブルウェアは言う。

虚偽の主張を繰り返した点では、右派も同罪だ。右派の間では昨年からイベルメクチンが新型コロナに効くという噂が広がっていたが、ブームに火が付いたのは今年初め、FOXニュースの司会者ローラ・イングラムが宣伝役を買って出てからだ。

医療従事者や科学者、規制当局は有効性を裏付けるデータが大幅に不足していると反論した。これに対して、上院議員のポールは地元ケンタッキー州での集会で、トランプ支持者が支持しているからとの理由で、研究者はイベルメクチンにわざと背を向けていると発言したという(ポールは後に、自身の見解が誤って報じられたと主張)。

製薬大手の利益の保護を優先?

保守派著名人のこうした姿勢によって、政府や医療業界は新型コロナ治療ではなく、製薬会社がワクチンから得る利益の保護により関心を持っているとの主張が強固になった。

ミネソタ大学のブルウェアいわく、これは「ナンセンスの極み」だ。「政府は複数の新たなイベルメクチン臨床試験に資金を提供している」

アメリカでは現在、全国規模の臨床試験として、患者1万5000人(推計)が参加するデューク大学主導の「ACTIV-6」や、患者1200人を対象にしたミネソタ大学の研究チームなどの「COVID-OUT」が実施されている。

米国医師会(AMA)や規制当局は今年に入って、より明確なデータが不足したまま新型コロナ治療にイベルメクチンを用いることに強い反対を示し始め、処方箋の入手がより困難になった。イベルメクチンの熱狂的支持者が、処方箋なしで購入できる動物用医薬品店に足を運ぶようになったのはそれからだ。

おかげで、ブームの危険性は増した。人間より体重が重い馬や牛に使われる家畜用イベルメクチンは一般的に濃度が高く、人間の上限用量の最大15倍に達する。軽度の過剰摂取でも吐き気や筋肉痛、下痢などの副作用が確認されており、摂取量が増えれば、副作用も深刻化する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏下院でバイル首相の内閣不信任案否決、予算成立に道

ビジネス

ECB、利下げ慎重に 中道アプローチ適切=レーン専

ビジネス

米国株式市場=続伸、企業決算を消化 金利見通しも支

ビジネス

米クアルコム、1─3月業績見通し予想上回る AIが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 8
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中