中国の怒りを買おうとも...EUの台湾への急接近は、経済的にも合理的な判断だ
Europe Is Doubling Down on Taiwan
ビュティコファー議員は2020年9月に同僚議員や有識者と連名で発表した寄稿で、欧州が「一つの中国」を支持すべき理由をこう述べている。今は中国政府が「新たな台湾政策を通じて、現状の維持を極めて危うくしている」が、だからこそ「欧州諸国は従来の台湾政策を変え、(台湾海峡の)現状維持に努めなければならない」と。
ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する。
経済的、科学的にも双方に利が
実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。
いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している。
皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファーの望むアプローチを支持させた最大の要因だ。
例えば中国が香港における「法の支配」を踏みにじったこと。あれを見れば、台湾に「一国二制度」が適用されるとは思えなくなる。
中国の習近平(シー・チンピン)政権は台湾に対する威圧的な発言や軍事的脅迫を繰り返しており、欧州諸国も今まで以上に懸念を強めている。台湾をめぐって米中が戦う事態になれば、世界の繁栄と安定に壊滅的な影響が及ぶからだ。
今では多くの政治家が、こう考えている。もしも台湾海峡の現状を変えるために武力を行使すれば欧州との政治的・経済的な関係は壊滅的な打撃を受けるぞ、と中国に警告し、軽率な行動を慎むようクギを刺す必要がある、と。
一方で最近の中国政府は欧州に対し、これまでになく敵対的な姿勢を見せている。こうなるとEUとしても台湾支援を急がざるを得ない。
今年3月、新疆ウイグル自治区での人権抑圧問題で関係者に制裁を科したEUへの報復として、中国は欧州議会の複数の議員と2つの委員会に制裁を科している。ビュティコファーも制裁対象者の1人だが、台湾との関係を深めたいという彼の決意はこれで一段と強まった。ちなみに、欧州議会代表団の一員として台湾を訪れたラファエル・グリュックスマン議員も、中国の制裁対象となっている。