最新記事

ヨーロッパ

中国の怒りを買おうとも...EUの台湾への急接近は、経済的にも合理的な判断だ

Europe Is Doubling Down on Taiwan

2021年11月17日(水)17時40分
トーステン・ベナー(独グローバル公共政策研究所所長)

211123P42_OTW_02.jpg

世界の半導体市場で存在感を増すTSMC TYRONE SIUーREUTERS

ビュティコファー議員は2020年9月に同僚議員や有識者と連名で発表した寄稿で、欧州が「一つの中国」を支持すべき理由をこう述べている。今は中国政府が「新たな台湾政策を通じて、現状の維持を極めて危うくしている」が、だからこそ「欧州諸国は従来の台湾政策を変え、(台湾海峡の)現状維持に努めなければならない」と。

ビュティコファーらに言わせると、台湾はこの数十年で「開かれた複数政党制の統治形態へと進化し、個人の尊厳を重んじる」民主主義の友邦となった。だから欧州の支持・支援を得るに値する。

経済的、科学的にも双方に利が

実は経済的な理由もある。台湾の人口は2400万、市場として小さくはない。それにハイテク産業の基盤があるから、協力すれば経済的にも科学的にも双方に利がある。

いい例が台湾積体電路製造(TSMC)だ。この会社は半導体の世界生産の半分以上を占めている。だからこそEU幹部のボレルもベステアも、台湾は「欧州半導体法の目標達成にとって重要なパートナー」だと言っている。この法律は半導体の設計から製造に至る全過程(バリューチェーン)で欧州勢のシェア拡大を目指している。

皮肉なもので、欧州の台湾接近を主張するビュティコファー議員に共鳴する仲間が増えたのは中国政府のおかげでもある。中国のこれまでにない攻撃的な姿勢こそが、欧州各国にビュティコファーの望むアプローチを支持させた最大の要因だ。

例えば中国が香港における「法の支配」を踏みにじったこと。あれを見れば、台湾に「一国二制度」が適用されるとは思えなくなる。

中国の習近平(シー・チンピン)政権は台湾に対する威圧的な発言や軍事的脅迫を繰り返しており、欧州諸国も今まで以上に懸念を強めている。台湾をめぐって米中が戦う事態になれば、世界の繁栄と安定に壊滅的な影響が及ぶからだ。

今では多くの政治家が、こう考えている。もしも台湾海峡の現状を変えるために武力を行使すれば欧州との政治的・経済的な関係は壊滅的な打撃を受けるぞ、と中国に警告し、軽率な行動を慎むようクギを刺す必要がある、と。

一方で最近の中国政府は欧州に対し、これまでになく敵対的な姿勢を見せている。こうなるとEUとしても台湾支援を急がざるを得ない。

今年3月、新疆ウイグル自治区での人権抑圧問題で関係者に制裁を科したEUへの報復として、中国は欧州議会の複数の議員と2つの委員会に制裁を科している。ビュティコファーも制裁対象者の1人だが、台湾との関係を深めたいという彼の決意はこれで一段と強まった。ちなみに、欧州議会代表団の一員として台湾を訪れたラファエル・グリュックスマン議員も、中国の制裁対象となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 4
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 5
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 6
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中