「台湾有事」というビジネスリスクを、企業はどう考慮しておくべきか
IS WAR INEVITABLE?
中国の武力侵攻を想定した台湾の軍事演習(2019年) Tyrone Siu-REUTERS
<アメリカと中国との対立がエスカレートするなか、中国に進出している外国企業は万が一の有事への備えを怠ってはならない>
貿易戦争では足りないかのように米中間の緊張は増す一方だ。そんななか、台湾をめぐる米中の武力衝突のリスクは従来になく高まっている。戦争に発展するわけではないが、リスク上昇の兆しはあり、企業は看過できない。
今年7月に行われた中国共産党の創立100周年式典。習近平国家主席は演説で、台湾との再統一は党の「揺るぎない任務」だと述べた。「われわれをいじめ、服従させ、奴隷にしようとする者を決して許さない。妄想した者は14億の中国人民が築いた鋼の長城にぶつかり血を流すことになる」
ただの脅しではなさそうだ。中国は4月、台湾周辺での軍事演習を「戦闘訓練」と表現。台湾のADIZ(防空識別圏)への侵入もエスカレートしている。6月末には日本の防衛省幹部が、中国とロシアがハワイを奇襲攻撃する恐れがあり、その証拠にロシアは太平洋で軍事演習を行っていると、アメリカに警告。一方、日米も台湾有事を想定した合同軍事演習を実施している。
米中貿易戦争が続くなか、米企業は報復関税によるコスト上昇に耐える一方、中国の生産・流通拠点への武力衝突の影響も検討する必要がある。中国が台湾占領を試みれば、台湾近海は戦艦や揚陸艦で埋め尽くされ、国際貨物の海上輸送ルートが封鎖・攻撃される恐れがある。厦門(アモイ)や福州など、外国企業が進出している主要な経済特区・開発区も巻き込まれる可能性が高い。
台湾海峡での衝突にとどまらず、台湾のミサイルシステムや米軍の爆撃機も使われる場合は、中国の沿海部や内陸部も危ない。広州から上海、青島まで中国東部沿海一帯が危険にさらされる。この一帯には珠江デルタや長江デルタなど経済開放区をはじめ、外国企業の生産拠点が集中している。内陸の南京や武漢なども攻撃される恐れがある。
生産拠点の一極集中は危険
中国に生産拠点を置く米企業には、生産・物流の急激なペースダウンが大きなネックになりそうだ。通常の経済活動が中断し、外国企業は早急に中国以外の国に生産拠点を移さざるを得なくなる。中国での生産はコロナ禍を上回る打撃を受け、武力衝突の影響は長引く可能性が高い。
米企業が米中貿易戦争と新型コロナウイルスのパンデミックで気付いたように、中国に匹敵する生産拠点はなかなか見つからない。中国はアジアのサプライチェーンと一体不可分で、高度なインフラと成長し続ける巨大市場を誇る。中国に代わる選択肢であるベトナムやタイといった国には中国並みの生産能力はない。