「ヒュブリス」だった東京五輪が日本に残す教訓
THE TOKYO "HUBRIS" OLYMPICS
今回、日本の国民を安心させるため政府と五輪主催者は多くの厳しいルールを定めたが、ほとんどチェックされなかった。非現実的なルールだったからだ。
五輪期間中の2週間外出せず、買い物もしないというルールはなかなか守れない。記者が突然、何かが要ると気付くこともあるだろう。「ここは隔離施設ではない。お客さんの監視はわれわれの仕事ではないし、やりたくない」と、あるホテルの社長は言った。
完全に行動を管理するには、外せない電子タグが必要だった。でも相手は受け入れないだろうから、政府や組織委員会は国民に事実を説明すべきだった。結果的に「徹底した行動管理」などできず、政府は信頼を裏切った。
関係者が一般人を感染させたとは言い切れないが、検査方法も「安全・安心」を保証するものではなかった。
選手らは検査を毎日行う。ただそれは抗原検査で、PCR検査と異なり、感染しても無症状だと陽性にならないリスクがある。専門家はそう言ったが、IOCと組織委員会は否定した。
他の関係者はPCR検査を受けたが、頻度は4日に1回や1週間に1回などバラバラ。仕組みは簡単だが「セルフサービス」で、唾液検査キットのバーコード番号などを自分で登録する。それが間違っていても、本人には分からない。だから、陽性なのに誰の検体か不明なケースもあった。
「上から目線」を続けたIOC
検査数と陽性者数が毎日発表されたが、組織委員会が強調したのは累計の検査数と陽性率だ。例えば7月1日~8月22日のスクリーニング検査は累計74万7797件で、陽性者は217人。組織委員会の計算方法だと陽性率は0.03%だ。
こんな陽性率は科学的に意味がない。陽性になった人はその後スクリーニング検査を受けないから、同じ集団を何度も検査するほど陽性率は低くなっていくからだ。
一般的に使われるのは1日平均の陽性率、または人口10万人当たりの7日間の陽性者数。私はそのことを何度も指摘したが、IOCも組織委員会も科学的な説明ができなかった。残念なことに、日本のマスコミはその非科学的な陽性率をそのまま報道していた。
専門家ではない私のようなジャーナリストが指摘しても何も変わらないだろうから、ここは専門家に介入してほしかった。IOCなどは「良い数字」を出すことが目的だから、専門家が「駄目だ」と言わない限り、都合の良いことしか発表しない。
7月1日~8月23日の間、五輪関係者に約550人の陽性者が出た(前述の217人を含む)。
何人が検査を受けたかは明確にされていないが、五輪のための来日人数は約4万3000人。国内在住の大会関係者は約19万人だというから、合計23万3000人。その中で陽性者550人は、例えば東京都の数字と比べれば多いとは言えない。