最新記事

アフガニスタン

アフガン撤退、バイデンの「テロ対処能力ある」に批判が続出する理由

ISLAMIC TERRORISM AGAIN?

2021年9月2日(木)17時55分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

アフガニスタン国内にいるIS勢力とタリバンが敵対しているのは周知の事実だし、タリバンは表向き、国内にいる武装勢力による外国への攻撃は許さないという立場だ。この国際公約を守らせるためにも、アメリカはタリバンとの対話を必要としている。

だが8月26日に空港テロを起こしたIS-Kなどは、もっぱら越境テロを目指している。

アメリカ本土を攻撃する前に

しかし「いくら困難でも不可能を可能にするのが情報機関の仕事だ」と言うのは、長らく現地の米大使館を仕切ってきたアール・A・ウェインだ。

「たとえ相手が昔の敵であっても、必要ならば手を組む」

ウェインによると、過去にもそんな実例がある。

昨年、東部クナル州で米軍はタリバンと連携してIS系の拠点をたたいた。「米軍が空から攻撃し、その後にタリバンが乗り込んだ。これで対話の基盤ができたと、当時も期待されていた」

今はその対話の時期なのかもしれない。だが、タリバンと組むだけでは足りない。

アフガニスタンは内陸国だから、アメリカが欲しい情報を手に入れるためには、パキスタンを含む周辺諸国の情報機関からも協力を得る必要がある。

どこかに地上基地を置く必要もある。基地があれば最新鋭の無人機や巡航ミサイルなどで迅速に攻撃できる。

二度とアフガニスタンを対外テロ攻撃の拠点にさせないというタリバンの公約を守らせる上でも、そうした基地の存在は重要だ。

タリバンの真意は、まだ分からない。

現場の戦闘員の一部は、今も国際テロ組織アルカイダとつながっている。しかし首都を制圧した今、タリバン指導部が「政府」として国際社会の承認を得たいと思っているのも間違いない。

共通の脅威に対処するためなら、アメリカの情報機関は敵性国家とも手を組む。

あの9.11テロ後には、アルカイダ征伐のためにシリアの情報機関とも協力した。ISをイラク国内から追い出すためにはイランとも手を組んだ。

ただしアメリカの情報機関には伝統的に、テロよりも仮想敵国(昔はソ連、今は中国)の脅威を重視する傾向がある。そうなるとアフガニスタンは忘れられる。

撤退後も「アメリカが現地における将来的なテロの脅威を察知する能力を維持することは可能だが、簡単ではない。しかるべき資源と、ぶれない方針が必要だ」と言うのは元CIA副長官のマイケル・モレル。

「今の、そして今後の政権に、それを期待できるだろうか。残念ながら、今はみんな(テロの脅威より)大国間の競争に目を向けている」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中