元俳優のマニラ市長、マルコス元大統領長男ら出馬や指名 混戦の比2022大統領選
ただ、この時ドゥテルテ大統領の副大統領指名と同時に指名された大統領候補のクリストファー・ボン・ゴー上院議員が指名を頑なに辞退。党としての正式な大統領候補が空席のままとなっていた。
この事態を受けて「PDPラバン」の一部会派がパッキャオ氏を大統領候補に指名、パッキャオ氏もこれを受諾したことから、大統領候補となった経緯がある。
このパッキャオ氏指名を巡って「PDPラバン」内部はドゥテルテ大統領支持派とパッキャオ氏支持派により分裂、主導権争いが激しくなっている。
こうした与党内部の抗争もモレノ市長の出馬やボンボン・マルコス氏の大統領候補指名という流れに繋がっているとの見方もあり、副大統領として政権内部に影響力を残したいドゥテルテ大統領がこうした情勢をどう判断するかが注目されている。
候補者調整を急ぐ野党側
これまで大統領選に出馬表明や指名受けた顔ぶれは、モレノ市長がドゥテルテ大統領に厳しい立場から出馬、パッキャオ氏は同じ与党内ではあるがドゥテルテ大統領には批判的立場、ボンボン・マルコス氏は親ドゥテルテ大統領と、それぞれ立場は異なるものの、絶対的な反ドゥテルテとはいえない。
こうしたなか反ドゥテルテ大統領を掲げて政権交代を目指す野党「自由党」などで組織する連合体「イサンバヤン」ではレニー・ロブレド副大統領を軸に候補者の選定、調整を急いでいる。
これまでのところ最有力とみられるレニー・ロブレド副大統領が大統領選への出馬意欲を明確にしていないため野党内には「早く決定するべきだ」「出馬しないなら他の有力候補擁立を急ぐべき」などとの声も急速に高まる事態となっている。
焦点はドゥテルテ大統領の長女
世論調査で次期大統領候補者として常にトップを占めるドゥテルテ大統領の長女、ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長はこれまで「父が副大統領候補である限り出馬しない」との態度を示しており、現状では大統領選への「参戦」の可能性は大きくない。しかし今後の展開次第では「サラ市長とボンボン・マルコス氏のペアで大統領選に出るのではないか」との見方も浮上するなど、不確定要素として残っている。
いずれにしろ、大統領選への相次ぐ出馬、指名で選挙戦が混戦模様となるのは確実視されており、今後さらなる立候補者の参戦などでさらに複雑化することは間違いないだろう。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など