米中天津会談、中国猛攻に「バイデン・習近平会談」言及できず──それでも習近平との近さを自慢するバイデン
シャーマンは「一つの中国」原則を守り、「台湾独立を支持しない」と誓ったと、中国外交部のHPにはある。
アメリカ国務省のHPは王毅外相との会談のみを公表
一方、シャーマンの主張に関してはアメリカ国務省のHPに王毅との会談のみが公表されている。
それによればシャーマンは以下のように言ったとある。
●われわれの価値観や利益に反し、国際秩序を損なう中国のさまざまな行動について懸念を示した。たとえば、香港での反民主主義的な弾圧、新疆ウイグル自治区で進行中の虐殺や人道に対する罪、チベットでの虐待、メディアへのアクセスや報道の自由の制限など、人権に関する懸念を示した。
●サイバー空間、台湾海峡、東シナ海、南シナ海での北京の行動に対する懸念についても述べた。
●中国で拘束されたり、出国を禁止されたりしているアメリカ人やカナダ人の事例を取り上げ、「人々は交渉の材料ではない」と伝えた。
●しかし「アメリカは中国との対立を求めているわけではない」と述べた。
バイデンが「私こそが世界で習近平に最も近い指導者」と自慢!
米中天津会談におけるシャーマンの発言が発表された翌日、ホワイトハウスは「バイデン大統領のアメリカ国家情報長官室におけるスピーチ」を発表した。
それによればバイデンは「自分が如何に習近平と近い存在であるか」を、以下のような事例を挙げて自慢している。
●私は習近平とは、世界のどのリーダーよりも多くの時間を過ごした。副大統領時代には、25時間も二人きりで過ごしている。
●私は習近平と一緒に1万7千マイルを旅した。彼と一緒に座って話したこともある。私が座って話をすることができたのは、それぞれに同時通訳がついていたからだ。
●習近平は中国が21世紀40年代までに(2040年頃までに)世界で最も強力な軍事力を持ち、世界で最大かつ最も優れた経済力を持つ国になることを、死ぬほど真剣に考えていた。これは本当のことだ。
ああ、なんということだ......。
中国側の猛攻に圧されて、バイデンが望んでいる「バイデン・習近平会談」の話題さえ持ち出せなかったというのに、誰の目にも明らかになる「習近平への秋波」を、国家情報長官室で送るとは何ごとか!
中国側はそれを仕掛けて「戦狼姿勢」でいることも知らないのだろうか。
7月28日にアメリカに到着した新任の秦剛・駐米中国大使は、米中天津会議の「シャーマン・王毅会談」に同席していた。
彼は「アメリカが中国を戦狼外交と言うのなら、アメリカは悪狼外交だ」と言ったことで有名なやり手だ。英語が堪能で、習近平の対米政策ブレインの一人であることに注目しておいた方がいいだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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