パンデミックを好機に変えた、コロナ時代の「オンライン」シェフたち
TikTok Recipe for Success
「男子厨房に入らず」で育ったベトナム出身のファン(右)、ヒールは低音の声の魅力も駆使してフォロワー数120万人を獲得 @SAIGONSPRINGROLL/TIKTOK, @THEHEALCHEF/TIKTOK, MENSENT PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES (SMARTPHONE)
<パンデミックの影響で高まる料理熱。ネットで人気の「オンラインシェフ」たちの成功の秘訣は>
2020年の多くの計画と同じく、警察官になるはずだったハリー・ヒール(26)の予定は白紙になった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で求人への応募者が集中し、ヒールは順番を待つことに。だがおかげで立ち止まって考える余裕ができた。
「本当は警官より創造的なことがしたかったが、自信もノウハウもなかった」
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの自宅で退屈していたときに始めたのが、TikTok(ティックトック)への料理動画の投稿だ。料理は以前、スキーリゾートで働いた際にある程度経験していた。
ヒールのアカウント(@TheHealChef)のフォロワー数は今や約120万人。彼らは美味で簡単なレシピと、俳優クリス・ヘムズワースを思わせる深みのある低音の声に魅了されている。
ヒールだけではない。パンデミック中、TikTokからは、自宅のキッチンを舞台にするスターシェフが数多く誕生している。
昨年、突如として家籠もりを強いられた人々は料理に目を向けた。TikTokではフード関連コンテンツへの関心が上昇し、視聴回数が300億回に迫るハッシュタグもある。儲けも大きく、既に数百万ドル規模を稼ぐクリエーターも現れている。
目的は飲食店の開業や自著の出版
だが多くの場合、料理動画は「ブランド構築」が狙いだ。作り手は飲食店の開業や自著の出版を目的にしている。
英紙ガーディアンが今年5月に報じたところによれば、過去3カ月間のTikTok利用者の55%は16~23歳で、24%は24~39歳だった。さらに、インフルエンサーをフォローする人の34%が、TikTokで紹介された食品や飲料を購入していた。
企業からアプローチを受けたインフルエンサーの1人がチー・ファン(24)だ。ベトナム出身の彼は、男の子は台所に入っちゃ駄目と言われて育った。「母はそういう慣習にうるさかった。いつも何とかキッチンへ行って、卵焼きなんかを作ろうとしていた」
料理に自由にトライできるようになったのは、アメリカに留学してからだ。ロックダウン(都市封鎖)中に@saigonspringrollで動画のシェアを始めた。
多くのフォロワーがベトナム在住だと気付いたファンは、ベトナム語版と英語版の動画を投稿するようになった。この戦略のおかげで視聴者層が広がり、フォロワー数は約180万人に上る。
ロンドンにあるインフルエンサーマーケティング会社、レッドピルの人材担当責任者フェイス・ブラムバーガーによれば、彼らがこれほど多くのフォロワーを獲得している一因は「自分なりのファン層やニッチを見つける」ことが簡単だからだ。