10年戦争で崩壊したシリア、国民をさらに苦しめる「最悪の飢餓」が迫る
Biden to Prod Putin on Syria Relief
ダマスカス近郊の町で、崩壊した建物の前を歩く子供 OMAR SANADIKI-REUTERS
<ロシアの圧力により最後の越境支援ルートも閉鎖の危機に。支援の道が断たれれば人道上の悲劇を招く>
6月16日の米ロ首脳会談で、ジョー・バイデン米大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領にシリアへの越境人道支援を拡大するよう個人的に迫る構えだ。複数の消息筋によれば、この結果、中東の中心に位置する国で新たな人道上の悲劇が起きるのを阻止するためにアメリカの役割が重要性を増す。反米の筆頭格ともいうべき国から譲歩を引き出せるかどうか、バイデンの手腕も試される。
これに先立ち、アントニー・ブリンケン米国務長官は3月に行われたシリアの人道危機を議論する国連安全保障理事会で支援強化の必要性を訴えた。リンダ・トーマスグリーンフィールド米国連大使も6月2日にトルコを訪れ、トルコおよびイラクの国境からシリア側への越境支援を拡大する計画に支持を求めた。オバマ、トランプの両政権が無関心だった国に再び関与しようという、バイデン政権の限定的だが一貫した取り組みの表れだ。
シリア北西部と北東部の反政府勢力支配地域の民間人にトルコ、ヨルダン、イラクとの国境にある一握りの検問所経由で支援物資を届ける国連の大規模計画は、ロシアの圧力で縮小を余儀なくされてきた。「人道上の悲劇」を招きかねないとの国連の警告をよそに、越境支援を可能にする国連決議案が期限を迎える7月10日を前に、ロシアは計画の完全中止か、少なくとも期間を1年から半年に短縮する可能性をにおわせている。
340万人以上が人道支援に頼る
シリアでは10年に及ぶ内戦で民間人数十万人が死亡、国外に逃れた難民は660万人以上、国内にとどまる避難民もおよそ650万人に上る。現在シリア北西部では340万人以上が人道支援に頼っており、北東部でも180万人以上が支援を必要とする。北東部の状況は昨年以降悪化している。新型コロナウイルス対策に必要な医療物資の輸送を担当していたイラク国境のアル・ヤルビヤ検問所をロシアが閉鎖に追い込んだためだ。
「現在シリアの人々の状況は、安保理が前回レビューを実施した9カ月前と比べて悪化している」と、国連人道問題調整事務所(OCHA)は支援状況に関する4月11日の極秘評価で指摘した。「北東部の状況も、昨年アル・ヤルビヤが国連の公認検問所から外れたのを受けて悪化している」
北西部の状況はそれ以上に深刻で、OCHAによれば「シリア北西部の交戦地帯では何百万もの人々が国境に追いやられ、生きるために人道支援を必要としている」という。ロシアが最後に残ったトルコ国境のバブ・アル・ハワ検問所の閉鎖も迫ると国連の外交官らはみている。国連はこの検問所から毎月約1000台のトラックでシリア北部イドリブ県に支援物資を運び、反政府勢力支配地域の240万人以上に届けている。