習近平の「愛される国」外交指示を解剖する
習近平の指示が、6月4日という敏感な日を前に出されたということは、香港への完全な押さえつけと骨抜きを完遂するためにあると考えていい。
希望的観測をするな
一部のチャイナ・ウォッチャーは、習近平のことたびの「愛される国」発言を、対中包囲網に苦しみ、新しく外交方針を変えるのかもしれないなどと分析しているようだが、そのような希望的観測はしない方が良いだろう。
これまでよりも、もっと世界中に潜り込んで、それと分らぬうちに中国共産党へのシンパを増やそうという狙い以外の何ものでもないのである。
拙著『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述したように、習近平の父・習仲勲は生涯を懸けて「言論の自由」を主張してきた。それ故に鄧小平により1990年になってからもなお、二度目の失脚を強いられたが、その復讐をしているはずの習近平は、父の仇討よりも「一党支配体制の維持を優先」して、言論の弾圧を強化している。
この優先的選択こそが、中国共産党の統治の正体であり、「言論弾圧」なしに中国共産党による統治は成立しないことを、私たちは中国共産党の党史から学ばなければならない。これだけは絶対に変えないことを知らなければならないのである。
堕としやすい日本
その中国共産党にとって最も堕としやすいのは日本だ。
たとえば孔子学院に対してはアメリカが警戒警報を鳴らし続け取り締まりに出ているため、西側諸国では閉鎖が相次いでいるが、日本は習近平の顔色を窺い、野放しに近い。
また、日本で「市民権」を得ている「友好の衣を着た」中国の知識人に至っては、日本のメディアの方から積極的に近づき、大切に扱って情報を発信させているのだから、手の施しようがない。
政権与党である自民党と公明党の中で指導力を持っている人物に対しては、中国はターゲットを絞って懐柔していることは繰り返すまでもないだろう。ここさえ押さえておけば、たとえ菅政権が言葉の上でアメリカ追随を行っても、中国は本気では怖がっていない。
自民党の二階幹事長が指導力を失った時には、中国共産党としては多少の痛手は負うだろうが、経済界にも、そして何よりもマスコミ界にしっかり根を下ろしているので、中国にとって日本は最も扱いやすい「友好の国」であり続けるだろう。
国民の意思などは無視して突き進んでいくのがわが国の政府であることは、今般の東京オリンピック・パラリンピック開催に対する政府の姿勢から見ても明らかだろう。
楽観的観測などは捨てて、日本が置かれている危機を直視してほしいと切望する。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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