最新記事

ベラルーシ

「空賊」と化したベラルーシ 前代未聞の暴挙で払う代償の大きさは?

State-Sponsored Hijacking

2021年6月1日(火)20時21分
エイミー・マッキノン、ロビー・グラマー

210608P32_BSI_01.jpg

ベラルーシ国営テレビが配信した反体制ジャーナリストのプロタセビッチの映像 TELEGRAM@ZHELTYESLIVYーREUTERS

そこには、アレクサンドル・ルカシェンコ大統領の率いるベラルーシに対する新たな経済制裁、国際民間航空機関(ICAO)からの追放、ベラルーシ領空の通過禁止(同国発着便も含む)などの対応が盛り込まれた。

ちなみに、抗議声明にはチェコ、ラトビア、ドイツ、リトアニア、アイルランド、ポーランド、イギリスの各国が名を連ねている。

スカンジナビア航空を含め、近隣の航空各社は航路を変更してベラルーシ領空を回避すると発表した。イギリス政府も国内の航空各社に同様な対応を命じた。EU域外のウクライナも、大統領命令でベラルーシ発着の直行便の運航を停止した。

5月24日にはベラルーシ政権派のメディアが、露骨に揑造と分かるプロタセビッチの「自白」映像を公開した。首都ミンスクで大規模な騒乱を画策した罪を認め、現在の自分は警察に虐待されていないと述べる映像だ。彼の家族や仲間たちは拷問の可能性を指摘している。

大衆の抗議行動に、警察と治安部隊は激しい暴力で応じてきた。既に約3万5000人が身柄を拘束され、殴打や拷問が繰り返されているという。収監されている政治犯は現状でも約400人に上る。

都合の悪い人物は「テロリスト」

身の危険を感じて国外に脱出したジャーナリストや反体制活動家は多い。たいていは近隣のリトアニアやウクライナ、あるいはポーランドに身を寄せている。

「みんな身の危険は感じている」と言ったのはフラナク・ビアチョルカ。反体制派の女性指導者で、今はリトアニア政府に保護されているスベトラーナ・チハノフスカヤの対外広報官だ。ビアチョルカによれば、ベラルーシ政府がチハノフスカヤの搭乗する飛行機を拉致する事態は想定されていたが、その可能性は低いと信じられていた。「まさか大空が、こういう政治的な争いの舞台になるとは誰も思わなかった」

民間航空機の強制着陸という手法は前代未聞だが、全体主義の国家が国外にいる反体制派を襲った事例は山ほどある。人権擁護団体フリーダム・ハウスが2月に発表した報告によれば、2014年以降だけでも独裁国家による他国での暗殺、拉致、暴行、拘禁などは608件に上る。

例えばルワンダ政府は昨年8月、難民の惨状を描いた映画『ホテル・ルワンダ』の主人公のモデルになったポール・ルセサバギナをドバイで拉致し、テロリストとして逮捕、起訴している。ルセサバギナはルワンダの現大統領を激しく批判していた。

フリーダム・ハウスの報告書にある国外での人権侵害事例の58%は、今回同様に「テロリスト」の逮捕を名目に行われている。都合の悪い人物を「テロリスト」と呼ぶのは独裁国家の常套手段だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

キヤノン、通期業績を下方修正 為替と米関税政策の影

ビジネス

ニデック、26年3月期は8.2%の営業増益見込む 

ビジネス

午後3時のドルは142円後半、日米財務相会談後の急

ワールド

焦点:米鉄鋼産業の復活へ、鍵はトランプ関税ではなく
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中