「空賊」と化したベラルーシ 前代未聞の暴挙で払う代償の大きさは?
State-Sponsored Hijacking
フリーダム・ハウスのネート・シェンカンによれば、独裁者が反体制派の弾圧に手段を選ばなくなった背景には2つの事情が考えられる。
まずは技術の進歩。国外にいる反体制派が母国の人々にメッセージを届けるのが容易になった一方、権力による監視もたやすくなった。2つ目は、国外での犯行なら罪に問われにくいという事情だ。「実際、そうした行為で政府の責任が問われることは少ない」とシェンカンは言う。
サウジアラビアの反体制ジャーナリストであるジャマル・カショギが、トルコで殺害された例を見るといい。アメリカの情報機関はサウジアラビア皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの関与を認定したが、アメリカ政府は今も彼に対する制裁を拒んでいる。
「外交の世界では、誰もが相手の顔を見て動く。相手が自分の国とどんな関係にあるかによって、対応は大きく異なる」。そう言ったのはイギリスの元駐ベラルーシ大使ナイジェル・グールドデービスだ。
経済制裁の効き目も不透明だ。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、ずっと前から国際社会の「ならず者」と見なされてきた。経済面でアメリカやEUとの関係も薄い。
赤白の靴下をはいただけで逮捕
今さら制裁を科すと言っても、できるのは国営企業に対する制裁の拡大、国営航空機の乗り入れやEU圏内の飛行禁止、ICAOからの追放、インターポール(国際刑事警察機構)からの除名といった措置くらいだ(ベラルーシ政府は反体制派の海外脱出を妨害するため、既に「国際手配書」を乱発してインターポールを混乱させている)。
街頭デモが始まった昨年8月以来、ベラルーシ政府は容赦ない弾圧を繰り出し、反体制派の息の根を止めようとしてきた。国民は反体制派のシンボルである赤と白の旗を掲げたり、そんな色の靴下をはいただけでも逮捕される。つい最近も独立系のニュースサイトが閉鎖された。収監されていた活動家が刑務所で不審な死を遂げた例もある。
新型コロナウイルスの感染拡大もあって、最近は街頭デモも下火になっていた。しかし戦闘機で民間航空機を強制着陸させるという今回の暴挙によって、ベラルーシ情勢は再び、ヨーロッパで最重要な問題となった。
「ルカシェンコも愚かなことをしたものだ」とギチャンは言った。そう、これで国内外の抗議活動が勢いを取り戻すことは間違いない。
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