「空賊」と化したベラルーシ 前代未聞の暴挙で払う代償の大きさは?
State-Sponsored Hijacking
プロタセビッチの身柄拘束に抗議するポーランドの人々 SERGEI KARAZYーREUTERS
<国際線をハイジャックして反体制派を拉致した前代未聞の暴走に対し、国際社会にできる対応策は限られているが......>
不審な男が私の後をつけてきて、私のパスポートを写真に撮ったようだ──。
ベラルーシ国籍のロマン・プロタセビッチ(26)は5月23日の朝、現在の住まいがあるリトアニアの首都ビリニュス行きの飛行機に乗り込む前、アテネの空港から同僚にテキストメッセージでそう伝えていた。アテネでは恋人と一緒に、つかの間の休暇を楽しんでいたのだった。
プロタセビッチはベラルーシの反体制ジャーナリスト。テレグラムという暗号化メッセージアプリを用いて独自の報道チャンネル「ネクスタ」を立ち上げ、昨年8月の同国大統領選における体制側の不正を暴き、数十万人規模の大衆的な抗議行動を起こす上で重要な役割を果たした。
当然、彼とその仲間たちはベラルーシの治安機関に目を付けられていた。今はポーランドにいる「ネクスタ」の現編集長タデウシュ・ギチャンも「日に10回以上は殺すぞという脅迫がある。もう慣れっこだ」と語っている。
そんなプロタセビッチを乗せたライアンエア(アイルランド)の旅客機がベラルーシの領空を通過しようとしていた時だ。ベラルーシ軍は戦闘機を緊急発進させ、テロリストによる爆破予告があったと称して同機を誘導し、首都ミンスクの空港に強制着陸させた。プロタセビッチを逮捕するための官製ハイジャックであったことは明らかだ。
有罪なら死刑になる恐れも
プロタセビッチは昨年、反体制活動を理由に「テロリスト」として訴追されている。もしもベラルーシの法廷で有罪を宣告されれば、死刑になる恐れもある。「こんなことが、まさか実際に起きるとは想像もしていなかった」とギチャンは言う。
他国の旅客機に搭乗中の人物を拉致するという前代未聞の暴挙を受けて、欧米諸国は国際ルールを無視した国家によるハイジャックだと非難した。ここで国際社会が断固とした対応をしなければ、いわゆる「ならず者国家」がベラルーシの例に倣い、反体制派の身柄を拘束するためなら平気で他国の旅客機を、それも空中で強奪するという最悪の事態が続発しかねない。
当然、EUには毅然とした対応が求められる。欧州議会議員(フランス選出)のナタリー・ロワゾーはEU大統領のシャルル・ミシェルに宛てたツイートで、「今こそEUの尊厳が問われている」として強い対応を求めた。
アメリカでは上院外交委員会のロバート・メネンデス委員長が、欧州各国の議会外交委員長と協議して直ちに共同の抗議声明を発表した。