最新記事

ミャンマー

【手記】ミャンマーで拘束されたジャーナリストが見た、監獄の過酷な現実

My Days in Prison

2021年6月16日(水)18時08分
北角裕樹(ジャーナリスト)
ジャーナリストの北角裕樹氏

解放後、身ぶりを交え自らの体験を報道陣に話す筆者(5月14日、成田空港) AP/AFLO

<「フェイクニュース」を流した罪で収監された日本人記者が、政治犯たちと過ごしたインセイン刑務所での26日間>

自宅のドアをノックする音が激しくなり、意を決して開けると、「ポリス」という文字が目に入った――。4月18日、ミャンマー最大都市ヤンゴンの自宅にいた筆者は、突然家宅捜索を受けて逮捕された。フェイクニュースを流した罪というぬれ衣で、26日間にわたりインセイン刑務所に収監されることになった経験を紹介したい。

拘束されたのは午後7時半頃。私服の軍人に率いられた、警察官や入国管理局の職員ら7~8人が自宅にやって来て家宅捜索を始めた。何人かは防弾チョッキを着て、ライフルのような銃を持っていた。令状はおろか、何の捜査なのかの説明もない。そしてパソコンやカメラ、携帯電話、書類など段ボール2箱分を押収。筆者もそのまま連行された。

階段を下りてアパートの外に出ると、警察のトラックが止まっていた。私は両手を上げてゆっくり周囲のバルコニーを見渡し、自分が逮捕されていることが近隣住民に分かるようにアピールした。私が捕まったという情報が流れれば、誰かが支援に動いてくれるだろう。そう考えての行動だったが、そのとおり1時間もしないうちに「日本の記者が逮捕された」という情報がインターネットを駆けめぐったと、釈放後に聞いた。

インセイン刑務所に着くと、すぐに取り調べが始まった。筆者は日本大使館員と弁護士を呼ぶことを要求し、それまでは調書にサインしないと宣言した。取調官は困り、上官を呼んだ。やって来た上官は到着するや否や机を拳でドンとたたき、「外国人がこの国で好き勝手にできると思うな。俺はおまえを刑務所に送ることができるんだぞ」と叫んだ。

政治犯たちが証言する軍施設での拷問

こうした荒々しい取り調べはあったものの、肉体的な暴力や拷問を受けることはなかった。しかし、筆者が会った多くの政治犯たちいわく、収監される前に軍の施設に数日から2週間にわたって収容され、そこで厳しい尋問や拷問を受けていた。

典型的なのは目隠しをされ、後ろ手に手錠をかけられ、コンクリートの床に素足でひざまずかされるパターンだ。その体勢で尋問され、答えが気に食わなければ棒で殴られる。

尋問は2~3日間休みなく続けられ、寝る間も与えられず、気絶すれば殴られて起こされる。トイレに行かせてもらえないので、ある政治犯は失禁してしまい、それを理由にまた殴られたと話していた。取り調べる軍人はしばしば酒を飲んでいたという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国政府「市場安定に向け無制限の流動性を注入」、ウ

ワールド

ネタニヤフ氏、停戦は戦争終結でないと警告 イスラエ

ワールド

ウクライナ、新型国産ミサイルの試験実施 西側への依

ワールド

ヒズボラ停戦合意崩壊ならレバノン自体を標的、イスラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計画──ロシア情報機関
  • 4
    スーパー台風が連続襲来...フィリピンの苦難、被災者…
  • 5
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 6
    なぜジョージアでは「努力」という言葉がないのか?.…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    「92種類のミネラル含む」シーモス TikTokで健康効…
  • 10
    赤字は3億ドルに...サンフランシスコから名物「ケー…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中