コロナ張本人、「中国点火vsインド点火」の罪と罰
これらの「ネット市民」の間では「侮華(ウーホア)」(中華を侮辱した)ことに対する過剰な反応と攻撃性が見られ、誰か一人が特定の事象に関して「あれは侮華だ!」と発信すれば、いきなり何億というネット市民がそこに群がり瞬時に燃え上がっていく。
在中の日本企業なども、この心理を理解しておいた方が良いだろう。
今回の「点火」画像も、「中国がコロナ支援物資を大量に贈ってもインドはそれほど感謝せず、アメリカが贈ったことに関しては感謝を大きく報道した」と一人が「つぶやいた」のに対して、「そうだ―!」、「それ行け―!」とばかりにナショナリスト心理に燃えたネット市民が一気に群がったことが原因だった。それを見て長安網ウェイボー担当者が、「人気を得よう」として「中国点火vs.インド点火」画像を発信したという流れだと解釈される。
しかしこのような発信は、「人類運命共同体」を唱える習近平国家主席の顔に泥を塗る結果を招いていることが何とも皮肉だ。
インドのコロナ感染者と死者の激増を知った習近平は4月30日にも、インドのモディ首相に電話して慰問と弔問の意を表したばかりだった。習近平としてはインドが日米豪と並んでQUAD(クワッド、4ヵ国連盟)を形成するのを何としても食い止めたい計算があり、インドを中国側に引き付けておきたい。
今年3月12日にQUAD首脳オンライン会議があった時には、中国はそれにぶつけて、同日、中印紛争に関する和解協議を行ってインドがアメリカの方に傾かないように工夫しているほどだ。
しかしひとたび点火されたナショナリズムの火は、ネット社会の中で、そう容易には習近平の思う方向には向かってくれず、コントロールは困難だろう。
自己顕示欲の塊のようになっているネット社会の中で、一方向に傾き膨らんでいくネット・ナショナリズムは、いつ「蟻の一穴(いっけつ)、天下の破れ」として、中国の一党支配体制のための強固な防壁を破壊するかしれない。その可能性を孕んでいるのである。
ナショナリスト心理が歪めていくネット空間が生んだ1枚の写真は、その「罪と罰」を如実に語っていると判断する。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。
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