コロナ封じのため国民の帰国禁止...家族に会えないオーストラリア人の嘆き
The New Hermit Kingdom
片や一般人は帰国が困難なばかりか、一時は帰国すれば刑務所送りになりかねなかった。モリソン首相は5月初め、変異株が猛威を振るうインドに直近2週間以内に滞在した自国民の帰国を禁止すると発表した。
違反した場合はバイオセキュリティー法により禁錮刑か罰金を科される恐れがあるという。さすがにこの措置は激しい批判を浴び、すぐに打ち切られたのだが......。
それにしてもワクチン接種はどうなっているのか。人口2500万人の豊かな先進国オーストラリアにとって、国民全員に行き渡る量のワクチンを確保するのはいとも簡単なはずだ。ところがどっこい。オーストラリアでは今年初めファイザーとアストラゼネカ製のワクチンが認可されたが、少なくとも1回接種した人は約10%にすぎない。
感染リスクが低いから接種は必要ない? いや、専門家は変異株が次々に出現する今の状況では世界中が接種を急ぐべきだと言っている。だがモリソンは聞く耳持たず、接種を急ぐ必要はないと昨年末に明言した。
モリソンによれば、接種が進むアメリカとイギリスの様子を「特等席」で眺めて、リスクとメリットをじっくり見極めればいい、というのだ。コロナ禍など人ごとといわんばかりののんきな言い草だ。
コロナフリーもいずれ崩れる?
オーストラリアは政府の迅速な対応と国民がステイホームを守ったおかげで感染拡大を抑え込めた。加えて南半球の島国という地理的条件が幸いしたことも忘れてはいけない。この幸運なコロナフリーの状況もワクチンなしではいつ崩れるか分からない。
オーストラリアの感染状況などを踏まえて、イタリア政府は約25万回分のアストラゼネカ製ワクチンの輸出許可を差し止めた。こうした輸出差し止めが重なれば、接種のペースに影響が及ぶ。大多数の国民が1回目の接種を終える予定日は何度も延期され、現時点では今年中とされている。
国境閉鎖の解除がその半年後になるのはなぜか。連邦政府は解除の遅れを州・特別地域のせいにしている。予算案には「州と特別地域が帰還者受け入れに上限を設けているため、国外からの帰国は21年中か22年半ばまで制限されることになる」と書かれている。
政府の仰々しい注意喚起は、ワクチンがもたらす医学的な奇跡と予防効果に一切、触れないことも少なくない。アメリカで4月中旬から18歳以上の全員がワクチン接種の対象になった頃、モリソンは、早々に国境を開放して入国を受け入れた場合、感染者が週当たり1000人「もしくはそれ以上」増える可能性があると語った。