最新記事

欧州

欧州のインド太平洋傾斜・対中強硬姿勢に、日本は期待してよいのか

2021年5月5日(水)11時20分
渡邊啓貴(帝京大学法学部教授、東京外国語大学名誉教授、日本国際フォーラム上級研究員)
英空母「クイーン・エリザベス」

日本など40カ国に派遣される英空母「クイーン・エリザベス」 Peter Nicholls-REUTERS

<英仏独がインド太平洋地域の安全保障に対する関心を高めている。EUは天安門事件以来となる対中制裁も採択した。しかし、欧州の態度が急変したというのは印象論。その本音はどこにあるのか>

インド太平洋をめぐる欧州主要国の動きがあわただしい。

2018年にフランス、昨年9月にはドイツ、そして今年3月には英国と、欧州主要国がアジア戦略・世界戦略を相次いで発表し、その中でインド太平洋の安全保障を強調している。

この8月からはドイツのフリゲート艦が日本を含む東アジアに寄港する予定だし、5月からは、建設費30億ポンドの英国最大級の空母「クイーン・エリザベス」が、海軍艦船6隻、潜水艦1隻、ヘリコプター14機、米海軍駆逐艦USS「サリバン」とオランダのフリゲート艦HNLMS「エベルトン」を同行して、7カ月間にわたってインド・韓国・日本・シンガポール・フィリピンなど40カ国を訪問し、合同演習を行う。

フォークランド紛争以来の最大の海空攻撃能力の海外派遣だ。

5月中旬には日米仏3カ国の陸上部隊による日本国内でのはじめての本格的な共同訓練が、陸上自衛隊の霧島演習場(宮崎県えびの市、鹿児島県湧水町)と相浦駐屯地(長崎県佐世保市)、九州西方海空域で実施される予定である。

なかでもニューカレドニアに海軍基地を置くフランスは、すでに2014年に「2+2」(日仏外務・防衛大臣会議定期開催の)協定を締結しており、たびたびヘリ空母などが日本に寄港しており、筆者も7~8年前に東京港の岸壁に横付けされたヘリ空母に乗船したことがある。フランスの対日政策広報の一端だ。

欧州の対中脅威認識の増大

こうした欧州主要国のインド太平洋の安全保障に対する関心の増大には、その背景に北朝鮮の核ミサイル脅威や習近平の下での中国の外交攻勢の強化がある。第一列島線付近ではもはや恒常的になっているといわれる中国の艦船と自衛隊・米海軍のにらみ合い、さらに直近ではフィリピンの排他的経済水域への中国艦船の侵入も欧州の危機感を高めている。

3月22日にEU外相理事会が、人権侵害を理由に新疆ウイグル自治区の政府関係者4人と1団体を対象とした制裁を採択したことにも同じことが言える。

一般にはEUの対中制裁は天安門事件直後以来約30年ぶりのこととして、EU対中批判の精鋭化として喧伝された。たしかに昨年12月にEUは「グローバル人権制裁制度」を導入して人権監視行動を強化していた。

またEUは2019年3月の「EU・中国戦略構想」の中で中国を、①交渉相手、②経済的競争者であると同時に、③体制上のライバルと性格づけたことで、この文書は大きな注目を浴びた。まさに価値観や考え方の違いを明確にしたEUから中国への牽制であった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中