欧州のインド太平洋傾斜・対中強硬姿勢に、日本は期待してよいのか
日本など40カ国に派遣される英空母「クイーン・エリザベス」 Peter Nicholls-REUTERS
<英仏独がインド太平洋地域の安全保障に対する関心を高めている。EUは天安門事件以来となる対中制裁も採択した。しかし、欧州の態度が急変したというのは印象論。その本音はどこにあるのか>
インド太平洋をめぐる欧州主要国の動きがあわただしい。
2018年にフランス、昨年9月にはドイツ、そして今年3月には英国と、欧州主要国がアジア戦略・世界戦略を相次いで発表し、その中でインド太平洋の安全保障を強調している。
この8月からはドイツのフリゲート艦が日本を含む東アジアに寄港する予定だし、5月からは、建設費30億ポンドの英国最大級の空母「クイーン・エリザベス」が、海軍艦船6隻、潜水艦1隻、ヘリコプター14機、米海軍駆逐艦USS「サリバン」とオランダのフリゲート艦HNLMS「エベルトン」を同行して、7カ月間にわたってインド・韓国・日本・シンガポール・フィリピンなど40カ国を訪問し、合同演習を行う。
フォークランド紛争以来の最大の海空攻撃能力の海外派遣だ。
5月中旬には日米仏3カ国の陸上部隊による日本国内でのはじめての本格的な共同訓練が、陸上自衛隊の霧島演習場(宮崎県えびの市、鹿児島県湧水町)と相浦駐屯地(長崎県佐世保市)、九州西方海空域で実施される予定である。
なかでもニューカレドニアに海軍基地を置くフランスは、すでに2014年に「2+2」(日仏外務・防衛大臣会議定期開催の)協定を締結しており、たびたびヘリ空母などが日本に寄港しており、筆者も7~8年前に東京港の岸壁に横付けされたヘリ空母に乗船したことがある。フランスの対日政策広報の一端だ。
欧州の対中脅威認識の増大
こうした欧州主要国のインド太平洋の安全保障に対する関心の増大には、その背景に北朝鮮の核ミサイル脅威や習近平の下での中国の外交攻勢の強化がある。第一列島線付近ではもはや恒常的になっているといわれる中国の艦船と自衛隊・米海軍のにらみ合い、さらに直近ではフィリピンの排他的経済水域への中国艦船の侵入も欧州の危機感を高めている。
3月22日にEU外相理事会が、人権侵害を理由に新疆ウイグル自治区の政府関係者4人と1団体を対象とした制裁を採択したことにも同じことが言える。
一般にはEUの対中制裁は天安門事件直後以来約30年ぶりのこととして、EU対中批判の精鋭化として喧伝された。たしかに昨年12月にEUは「グローバル人権制裁制度」を導入して人権監視行動を強化していた。
またEUは2019年3月の「EU・中国戦略構想」の中で中国を、①交渉相手、②経済的競争者であると同時に、③体制上のライバルと性格づけたことで、この文書は大きな注目を浴びた。まさに価値観や考え方の違いを明確にしたEUから中国への牽制であった。