国家安全法の水面下で聞いた「諦めない」香港人たちの本音
They Never Give Up
市民が香港政府に向ける視線は既にデモへの対応にとどまらない。デモを引きずった結果、中国政府にすがり、国家安全法の導入を許し、さらに悪化を続けるコロナ事情に、緊迫した日常の制約......そんな政府の施策に市民の多くが不満を抱いている。
友人たちのほとんどはいっときも安心できないと言っていた。
ちょうどデモの前年に大学院を卒業し、西洋メディアでインターンの記者として働き始めたZは、デモの先頭に立つ自分と同世代の若者たちを取材して回った。
体力の続く限り駆けずり回った揚げ句、現場で目にしたことに心もぼろぼろになり、SNSに「疲れた」とつぶやいたことも一度や二度ではなかった。だが、今の香港の状況には絶望は感じていないという。
「(2014 年の)雨傘運動が失敗に終わったときは、絶望感で何カ月も何も手に付かなかった。まだ高校生だったし、初めて参加した社会運動だったしね。でも今回は違う。先を見て頑張るぞって思えるんだよね。若い子たちが昔の自分のように絶望感にさいなまれているのを見ると、大丈夫、未来はきっと開けるよ、と声を掛ける側になっちゃった」
手段は「市民的不服従」
派手なスローガンや行動はすっかり姿を隠してしまった。だが、若者たちは国家安全法ににらみ付けられているのを知りながらも、次のチャンスをうかがっていると感じる。
それは必ずしも「暴れる」という意味ではない。自分たちが次に何を社会に働き掛けられるのかを考えているのだ。書店では歴史書や哲学書がベストセラーに並ぶ。彼らはじっと腰を据え、世界の知恵をいま吸収しているようだ。
友人たちをはじめとして香港市民は、国家安全法施行以降、外では口に気を付けて行動しながらも、政府からの圧力を非現実的だと感じている。そしてその非現実的なものにできるだけ協力しないことを抵抗手段としているのだ。
例えば、昨年政府が5億香港ドル(約70億円)以上の費用をかけて実施した「全民新型コロナウイルス検査」。
検体が背景のよく分からない中国系研究機関に送られることが大きな議論の的になり、最終的に検査に参加したのは全人口750万人のうち178万人余り。その結果、無症状患者42人が見つかったと政府が誇らしげに語るのを、市民は冷ややかに眺めていた。
さらには、旧正月後になってレストランの利用が緩和されたが、それと同時に入店時に使用が義務付けられた接触通知アプリ「安心出行」。
政府に個人情報が漏れるのを警戒し、多くの人がダウンロードを拒絶している。店舗側も紙と鉛筆を準備し、アプリの代わりに「万が一感染者が出た場合の連絡先」を記入してもらい、「情報は政府に渡さず、店が責任を持って1カ月後に破棄する」ことを約束して営業するようになった。