国家安全法の水面下で聞いた「諦めない」香港人たちの本音
They Never Give Up
今回の滞在で、20人を超える友人や知り合いと会って話を聞いたが、その中で複数の人が異口同音にこう言うのを聞いた。
「中国がこう出ることは予想していた。でも、まさかこんなに速く全てが進むとは思わなかった」
この言葉を口にした人たちには共通点があった。彼らは皆、成人してから香港に移り住んだ中国出身者だった。
香港では、合法的に7年間居住すれば、国籍とは関係なく永久居民権(永住権)を手に入れられる。私の友人にはこの制度を利用して既に香港人になった人、そして今この瞬間もそれを目標に香港で暮らす中国出身者がいる。
驚き・決意・怒り・希望
その1人、Lは元中国系メディアの記者で、今は香港の大学で教えている。中国からの留学生を前に、なぜ香港がデモの道を歩まねばならなかったかを知ってもらうために知恵を絞り続けている。中国で刷り込まれた偏見をいかに打ち破るかが今の課題だ。
「中国にとって香港の国際性は最も大事な要素だったはず。習近平(シー・チンピン)はそれすらも犠牲にして自分の野望を打ち立てようとしているわけね。だから香港のデモを歪曲して国内に流布している。その情報の壁を打ち破るのは容易じゃないのよ。それでもやらなきゃならない。私は香港市民だから」
中国の少数民族地域出身のNは、「香港人は中国政府をよく知らない。中国国内のセンシティブなエリアで育った私はギリギリの『引き際』を常に意識しているけれど、ここの人たちは全くそれに頓着していなかった。だからレッドラインを踏んじゃったのよ」とため息をついた。
「私たちと違って、国家安全法下の生活は香港人には初めてのことだから今は必要以上に萎縮している。執行する側も香港人だから、国家安全法の施行に舞い上がって(取り締まりの)基準が常に変化しているのも問題ね」
「まだ中国人」のNは今後まず香港の永住権を取り、その後で海外に出ることも考えていると言った。
北京出身で中国系メディアで働くCは、武漢出身の夫と2人の子供と香港で暮らしている。
なんと新型コロナウイルスの存在が公になる直前まで夫の実家に里帰りしており、香港をたつ前から体調が悪く、武漢で診察してもらった医師がその後、コロナで亡くなったと聞いて仰天したという。
「私は仕事の都合上、親中派に近い立場だけど......林鄭行政長官の物言いは信じられない。私が武漢の病院にかかったとき、もうコロナ患者があの病院に駆け込んでいたのよ? 行政長官はなんでもかんでも中国政府の言うことを香港人に向けて言い続けている。うちの上海の記者ですら『中国製ワクチンは絶対に打たない』と言うのに、香港市民に『中国製ワクチンは安全だ』なんてよく言えるわね」