国軍につくか市民につくか......ミャンマーが中国に迫る二者択一
China Finds Itself Under Fire in Myanmar
反中感情が高まるなかヤンゴンの中国系工場が炎上(3月) AP/AFLO
<反中感情が高まるなか国軍と手を組むか、経済リスクと対中感情を優先して縁を切るか、中国が直面する究極の選択>
3月14日、ミャンマー(ビルマ)の最大都市ヤンゴンの工業地帯・ラインタヤ地区などで治安部隊がデモ隊に発砲し、少なくとも38人が死亡した。1日の死者数としては、2月1日にクーデターで国軍が全権を掌握して以降で最多だ。さらにこの日、ラインタヤ地区では中国資本の複数の工場が炎に包まれた。原因は不明だが、従業員の間では数日前から、流血の事態が起きれば工場は灰と化すと言われていた。
中国の国営メディアがこの事件を経済的な損失に注目して報じたが、これにミャンマー市民の怒りが爆発。市民の間では、中国がクーデターを支持しているように見えること、少なくとも国軍の行為を非難しないことへの不満が以前からくすぶっていたためだ。
今回の衝突は、中国とミャンマー国軍の関係にも緊張をもたらしたようだ。ミャンマーで活動する中国の国有企業は一部の従業員を引き揚げ、中国メディアはミャンマー当局が中国の利益を守れないなら、中国は「思い切った行動」を取ると警告している。
今回の出来事は、ミャンマーにおける中国の複雑な立場も浮き彫りにしている。中国指導部は独裁政権と手を組むことに良心の呵責を感じていないようだが、安定を何よりも重視する傾向もある。だがクーデター後の混乱によって、前政権との間で調印した大型開発案件など中国のビジネス上の利益が脅かされている。
中国陰謀論がSNS拡散
その一方で、デモ隊の間で中国への敵意が高まっており、中国は国軍と市民のどちらにつくのか立場を明確にせざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。
中国への怒りはデモの開始当初からあり、ヤンゴンの中国大使館周辺では定期的に抗議運動が行われていた。当初はクーデターを強く非難しない中国へのまっとうな批判だったが、不満が膨れ上がるにつれて中国がクーデターを企てたとの説が拡散。国軍の中に中国軍兵士が交じっていたという偽の目撃情報や、国軍によるインターネットの遮断措置を中国が支援したというさまざまな噂話がソーシャルメディアで広がった。
中国がミャンマーへの内政干渉を試みてきた過去を考えれば、市民が警戒するのは当然だ。ただしクーデターの背後に中国がいるという陰謀論は、文民政権を率いたアウンサンスーチーとの関係構築に中国が腐心してきた経緯や、中国と国軍の緊張関係を見落としている。またミャンマー西部のラカイン州で独立闘争を仕掛ける武装勢力のアラカン軍に対し、中国が物資を支援しているとの指摘もある。
クーデターによって中国の投資プロジェクトは危機に瀕している。中国は今後、インド洋へ直接のアクセスを可能にするラカイン州チャウピューの港湾開発計画の進捗を厳しくチェックすることだろう。