最新記事

ミャンマー

国軍につくか市民につくか......ミャンマーが中国に迫る二者択一

China Finds Itself Under Fire in Myanmar

2021年3月24日(水)17時00分
アンドルー・ナチェムソン(ジャーナリスト)

前政権が中国と締結した合意を、軍事政権が継承するかどうかも不透明だ。政情不安が高まれば、両国の国境地帯の紛争が激化して貿易にも支障が出かねない。またデモ隊は石油パイプライン敷設計画など国内各地の中国系プロジェクトを標的にするとしており、中国政府は彼らの動向にも目を光らせる必要がある。

中国は国軍を非難することも、民主化勢力の怒りを買うことも避けながら、自国の利益を守る道を模索してきた。だがクーデター直後にアメリカが国軍を非難したことで、そんな中国の実利主義が白日の下にさらされてしまった。

国連安全保障理事会による非難声明をめぐって、中国はロシアと組んで国軍への強い非難を盛り込まないよう交渉し、「クーデター」の表現が削除された。デモ隊としては、中国の投資プロジェクトを標的にすることで、国軍に厳しい態度を取るよう中国政府に圧力をかけたいところだ。

中国が進めてきた開発プロジェクトの経済効果が疑問視され、環境問題が懸念されるにつれ、ミャンマーではここ数十年、反中国感情が高まっていた。1988年の大規模民主化デモは、80年代の中国・雲南省からの移民の大量流入に人々が不満を抱いたことも原因の1つになったと、東南アジアにおける中国の影響についての著書があるセバスチャン・ストランジオは指摘する。

そもそも中国系ミャンマー人は、政府公式発表の135の少数民族に含まれず、「常にある程度の人種差別を受けてきた」と、在ミャンマー華僑青年協会のサイネイネイウィン会長は言う。

デモ隊の間で反中国感情が高まっていることで、中国系ミャンマー人コミュニティーは不安を募らせている。この緊張状態は「双方向的問題」だとサイネイネイウィンは言う。多くの在ミャンマー華僑が、ミャンマーよりも中国に強いつながりを感じているからだ。一方で、進んでデモに参加する中国系ミャンマー人も増えている。警察の銃撃を受けて死亡し、抵抗の象徴的存在となった19歳のカイアル・シンもその1人だ。

軍事政権にいら立つ中国

民政移管前の1988~2011年、当時のミャンマー軍事政権は中国に擦り寄っていた。「根深い中国不信」を抱えながらも、国際社会から背を向けられていたからだと、ストランジオは言う。そして、欧米諸国からの非難が高まる今、現軍事政権がかつてと同じ行動に走ることは容易に想像できる。とはいえ、中国依存を減らしたいとの願望が、ミャンマー民主化の原動力となっていた側面もある。

アウンサンスーチー支持者の多くは認めたがらないだろうが、彼女が事実上主導していた国民民主連盟(NLD)政権下で、中国はミャンマーとかなり親密な関係を築いていた。NLDが政権を握りつつも軍に頭を押さえ付けられていた以前の体制は、中国にとっては理想的だったようだ。軍による人権侵害でミャンマーが欧米諸国からは敬遠される一方で、中国はおおむね合理的なNLD政権を相手に取引ができたからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中