サウジ皇太子を記者殺害で「有罪」認定でも制裁できない訳
報告書はムハンマド皇太子が殺害を承認したと結論付けたが、制裁は見送り BANDAR ALGALOUDーCOURTESY OF SAUDI ROYAL COURTーHANDOUTーREUTERS
<中東政策上、サウジとの関係を維持したいバイデン政権は皇太子本人への制裁を見送り>
バイデン米政権は2月26日、ワシントン・ポスト紙のコラムニストだったジャマル・カショギが2018年に殺害された事件に関連して、サウジアラビアのムハンマド皇太子が殺害作戦を承認したと結論付ける調査報告書を公表した。
この報告書は、トランプ前政権が議会への提出を繰り返し拒否したものだ。皇太子が国政の主導権を握っていたこと、側近サウド・アル・カハタニの関与、皇太子が「国外の反体制派を黙らせるための暴力的手段の行使を支持した」ことなどを結論の根拠にしている。ただし4ページの報告書は、皇太子の関与を示す具体的証拠には何も触れていない。
サウジアラビア政府は事件について、カショギを帰国させるために派遣された特殊チームによる「命令を逸脱した作戦」の結果だとしてきた。
米議会民主党は、早速この報告書をトランプ批判に利用した。「トランプ大統領が情報の開示を何年も拒み、外国要人の凶行を擁護したことは、在任中の多くの汚点の1つになる」と、ロバート・メネンデス上院外交委員長は言った。
トランプ政権下で親密だったアメリカとサウジ
皇太子を殺害作戦の黒幕とする見方は以前から多かったが、報告書の公開は前政権下で親密の度を増した両国関係の大きな変化を示唆するものである可能性がある。
ロイター通信は26日、バイデン政権はサウジアラビアへの武器売却を「防衛用」兵器に限定することを検討中だと報じた。同政権は6年近く続くイエメン内戦の終結に向けて協力するよう、サウジアラビアに圧力をかけてもいる。
ブリンケン米国務長官は同日、カショギを含む国外の反体制派を脅したり抑圧しようとしたサウジアラビア人76人に対する新たなビザ制限を発表。「国内の全ての人々の安全のため、外国政府の意を受けて反体制派を狙う者の入国を許すべきではない」と述べた。
米財務省はカショギ殺害に関与したとみられる複数の人物への制裁を発表。その中には皇太子の警護担当者も含まれていた。だがバイデン政権はサウジ王室との関係維持のため、皇太子本人への制裁は見送るようだ。