ミャンマー国軍が「利益に反する」クーデターを起こした本当の理由
Why the Army Seized Power
クーデターは国軍にとって、争うことなく国内の直接的な支配権を手にしたこと以外はほとんど恩恵がなかった。従って今回の権力奪取は、民間の反対勢力による詮索や邪魔を回避して内政問題に対処しようとする試みである、とも考えられる。
軍内部の統制が目的か
1962年の軍事クーデターから88年の全国に広がった民主化要求デモまで、国軍と対峙する戦線は、多数派のビルマ民族と少数民族にほぼ分裂した状態が続いた。民族間のコミュニケーションの欠如とビルマ民族による他民族への偏見も、その一因だった。やがてスーチーとNLDが台頭し、1988年以降にインターネットなど近代的な技術が普及して、国軍と対峙する戦線の統一が進んだ。
国軍はビルマ民族の中心地域で武器を独占しており、大半の反対勢力が国土の周辺部で活動しているが、国軍の指導部にとっての最大の脅威が内部から生じることは十分に考えられる。
国軍上層部の不和の噂が広まれば、厳重に管理された軍のシステムは崩壊するだろう。組織に関して信頼できる情報が外部に漏れることはその発端になり得るため、国軍は情報を厳重に管理してきた。
文民政権の下で国軍内の反対分子をコントロールしようとしても、その行為は表に出やすく、投票の自由を奪われた国軍メンバーが文民指導者に支援を求めることも考えられる。つまり今回のクーデターは、軍が国際社会や市民に知られることも干渉されることもなく、反対分子に完璧に対応できるようにするために行われた、とも考えられる。
クーデターそのものは、国軍上層部の権威と特権を維持するために、ミンアウンフライン総司令官が個人的に決断した可能性もある。しかし、比較的限界的な利益のために、ミャンマーが世界経済から疎外されるようになるリスクを冒すとは考えにくい。新たな孤立の時代の到来を宣言するより、世界市場とつながっていることから得られる利益のほうが、彼らにとっても大きいからだ。
さらに、昨年の選挙でUSDPは敗北したが、国軍が自らの特権を守るために慎重につくり上げた憲法を脅かすことはなかった。
クーデターのコストと利益を計算すると、これら2つの要因が混じり合っているのではないだろうか。正統性に関してスーチーと文民政府に負けたことが、潜在的な内部対立と相まって、軍上層部の特権を脅かした。スーチーと文民政権は、汚職など国軍の権力乱用を明らかにしたかもしれない。
今回のクーデターは、軍が内部の問題を干渉されることなく解決するために発動された可能性も高そうだ。
とはいえ、まだ断言することはできない。国軍はこれまで、自ら謎めいた存在であり続けてきた。情報は力であり、将軍たちはそのことを十分に認識している。
From thediplomat.com
<本誌2021年3月9日号掲載>
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